Your focus determines your reality.

思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

インフラ企業での新サービス作り

ドコモのレンタサイクルに見るインフラとサービスの関係

株式会社ドコモ・レンタサイクルが運営する都内のレンタサイクルが便利である。「赤い自転車」と言えば、特に山手線近辺の方、湾岸エリアの方はイメージできる方が多いのではないだろうか。

この自転車、すごく便利なんだけどサービスとしては全然ダメダメだなと思う。競合もいないし、もしかしたらやり方もよくわからないので、UX改善に全然力入れてないんだろうなと。

その理由を少し書き出してみる。

 

1. UIがダメ

・アプリから自転車の充電状況が見られないので、現地で充電されてるかなど確かめて
 からじゃないと使えない
・地図でポートを探すとき、少しでも地図を動かすとポートの再検索が走り、
 時間がかかる
・地図上のポートマークに何台使えるかが表示されていないので、ポートマークを
 タップして一つずつ開け、自転車が1台以上停まっているポートを探す必要がある
・アプリに文字が多すぎる
・自転車の車体番号を選んで予約するという謎のオプションがある
・「ポート検索」メニューから借りるのが圧倒的に簡単なのだが、その横に「借りる」
 というメニューがあり、これが非常に使いづらく、混乱を招きやすい 

2. オペレーションがダメ

・ポートにある自転車の半分はなぜかアプリに出てこない
・出てくる自転車はほとんど充電されてない
・そもそもポート間で自転車が偏りすぎてて、自転車が0台のポートばかり
・逆に停めようとしても自転車が溢れてて停められないポートも

 

NTTグループらしいなと思うのが、仕組みづくりに全力投球する一方で、UI/UXがほったらかしなところである。数十の自治体を繋いでサービス展開してるところや料金が安価なところは見事だけど、使い勝手は悪いし、全然改善されていかない。以前日本にいた2年前からサービスがほとんど進化してないと感じる。

 

アメリカで激戦のLIMEBIRDなどのシェアスクーターは、車体や料金での差別化が効かない分、UIとオペレーションの改善スピードがメチャクチャ速い。
サービスインから半年ほどの間にアプリや車体の配備状況が日々変わり、それに伴って会社間の競争状況も日々シビアに変わる。数日前には見なかった事業者が一気に台数を増やしていたり、その逆も然りである。

 

一方、ドコモのレンタサイクルはほぼ独占なので、インフラだけ整えればとりあえず安泰だ。でもそれに安心しているのか、サービスの質が一向に改善されない。
破壊的イノベーションが出てきたら一瞬でひっくり返されて廃れてしまいそうである。

 

このアプリ、どれだけのユーザに使わせて声を拾ってるんだろうか。出したらもうユーザの声なんて聞いてないんじゃないかと思われる。
言われた事だけ何となく受け取るのは、ユーザの声を聞くことには入らない。仮説を立て、それをユーザと一緒に検証することを繰り返していかないと、インフラはサービスにはならないのだ。

 

では、自分たちの議論はどうか

先日、グループ会社の人たちと研修のような場で新事業創出のグループディスカッションをする機会があった。「モビリティ」をテーマに議論し、かなり盛り上がったのだが、議論をしていて気になったことがあった。

 

私世代か、少し下のアラサー世代でも皆すぐに「座組みを広げる」ことや、「他のプレイヤーを巻き込む」こと、「新しい技術を使う」ことばかり議論したがるのだ。
それよりもっと前に、サービスを作っていくにあたっては、顧客はどこにいるのか、Painは何なのか、市場はあるのかなど、検証すべきことは山ほどある

 

それなのに、「誰のどんなpainを解決するサービスなのか」も定まらないから、議論しているうちにすぐ前提がブレてしまっていた。地方の話だったのに急に都心の話になったり、若者向けの話をしていたのに急に中高年層の利用シーンを想定してみたり。
それでも議論は続き、自治体を巻き込んで、AIを使って、自動運転にしてとどんどん盛り盛りに。

 

ニーズや市場の大きさのラフな検証なら簡単なサーベイや机上計算でも全然できるし、Minimum Viable Product(MVP)で超初期の仮説検証をするだけならAIも自動運転も必要ない。
でもついつい「何か新しいもの、すごいものを」と考えていると、そういうバズワードを盛り込んだり、誰か大きなプレイヤーを動かしたくなってしまうようだ。

 

鶴の一声

さらにこの話はもう一つ恥ずべきことがある。

実はAIと自動運転を使おうと言い出したのは、アドバイザとして同席していたあるグループ会社の常務だった。
「通勤時間を有効活用できるサービス」を検討中だったのに、それまで黙って議論を見ていた常務の「AI自動運転通勤バスってどう?」という鶴の一声に、メンバーが一斉になびいてしまった。「いいですね!!」と。

 

車の中でも快適に仕事ができるようなモビリティサービスの検討をしていたはずで、それが自動運転であることやAI(何に使うのかは不明…)を使うことは、少なくともその時点で見えていたニーズに答える要素として全く必要ないはずだった。

でも幹部が挙げたバズワード満載のソリューションに飛びついてしまう若手。ここにうちのグループのサービス作りの進み方が凝縮されているような気がした。

 

まずはMVPとして、運転手を一人雇ってうちの社員で実証実験したら良い、という意見を上げ続けたが、その後の検討でも自動運転がなんとなく所与のものとして張り付いてきてしまい、気持ち悪かった。

 

この問題は相当根深くて、ドコモのレンタサイクルとも同じ構図だなと感じる。

「座組み作り」に全力を尽くす一方で、そもそも「誰の何を解決するサービスか」というコンセプトが不在なので、サービスとしての軸やUXの改善が全然進まない。それなのに、ツールとしての座組みやテクノロジーの話に飛びついてしまう。幹部すらそんな状態なので、若手で議論をしていてもその文化や空気に支配されてしまうことは最もだ。

 

プロダクトマネジャーがすべきは?

コアターゲットを定めることは切り捨てるべきユーザを決めることにも似ている。しかしそこが定まっていないので、長い意思決定プロセスの中で色んな偉い人に言われる色んなユーザニーズへの対応を断りきれず、結局は玉虫色で角の取れた、まるーいサービスができあがる。それは誰にも刺さらない。

 

プロダクトマネージャーとしてするべきは、初期段階から誰の何を解決するプロダクトか、そしてそこに市場はあるのか、勝ち目はあるのかを素早く徹底的に検証することだろう。
そのうえでそれが定まったら、勇気を持ってそれ以外の市場は切り捨て、ひたすらその狙いに向けてプロダクトを研ぎ澄ますのみである。

 

先日の議論中もそれを色んな言い方で主張したが、やはり言葉だけでは伝わりにくかった。というか、みんな早く出来上がりイメージを描きたいし、それは大きくカッコいいものであってほしいと願っている。地味なサーベイとかするより、自治体やイケイケのベンチャーと組みたいのだ。

 

それを変えるには、自ら時間を作ってそういう地味な検証をスピーディーに繰り返し、その結果を周りに示して動かし続けるしかない。

 

Intrepreneurが立ち向かうべき苦労の1つはこういうことなのかもしれない。

2019春学期振り返り

今週は授業はなく、水曜日にLab to Market(L2M)のプレゼンとCreativityの期末試験、木曜日にFinancial Statement Analysisの最終レポートを提出し、これでMBAの全てのカリキュラムが終了した。

最後の週まで盛りだくさんで、MBAライフの良い締めくくりになった。

 

MBA最後の学期は授業を3つに減らし、L2Mに時間を充てるという作戦だったが、結果的にはL2M以外の2つの授業の負荷が想像以上にかなり重く、授業を減らしたことが幸いするという結果になった。

ただL2Mでは後悔なくやりきることができたし、結果としての評価も付いてきた。またそのプロセスではグループメンバーとの議論や、自分の責務を全うするのに足りていない知識の補強などにも時間を割くことができ、実際にシード技術をビジネス化していく初期段階を自分の手で動かすという満足のいく経験を得ることができた。

 

Lab to Market

1年生の春学期、2年生の冬学期に続く事業立案演習の第3部。

これまでも書いてきた通りだが、先学期から引き続き、機械学習を活用した新たな血液検査技術をビジネス化するというプロジェクトに取り組んできた。

市場調査やラフな事業計画を通して事業魅力度を測った先学期に対して、今学期はより詳細な事業計画を作成し、初期段階でどのように市場に入っていくか(Go-to-Market戦略)の策定や、それに基づいたより詳細な事業計画、資金調達計画を作成するという内容であった。

 

結果としては全体のトップ3に選ばれたとともに、今週行った最後のプレゼンでは投資家から「投資したいんだけどこの事業は今後サンフランシスコが拠点になっちゃうんだよね」という反応を引き出すことができ(その後は継続して事業化を進めるメンバーによって投資交渉が続くことになりそう)、自分たちが半年で出せる最高の結果を出すことができたと思っている。

 

この授業から得たものを文字にまとめるのは難しい(というかまとめると小さくまとまってしまう)のだが、大まかに言うと

「未経験の分野での事業開発におけるモヤモヤ・ゴタゴタに耐えて、前に進む力」

「異なるバックグラウンドをもつチームで協力してグループダイナミクスを生む力」

「事業化の中で必要になる検討事項を整理し、優先順位をつけながら取り組む力」

になると思っている。

 

「未経験の分野での事業開発におけるモヤモヤ・ゴタゴタに耐えて、前に進む力」

これもこれまで書いてきたが、今回のプロジェクトは血液検査の新技術の事業化という個人的に全くの未経験分野でのプロジェクトであった。

技術的知識はもちろん、業界のプレイヤー同士の関係性、FDA(食品医薬品局、アメリカの厚労省的組織)の承認プロセス、マーケティングの定石などほぼ知識が皆無の状態からのスタートだ。

しかし半年間で一通りの結果を出すためには、英語でそれらを全て情報収集して読み込み理解する時間は無いので、必要なことだけをとりあえず学び、分からないことや知らないことに当たったらその都度情報収集したり、仮説のまま進めたりしていくしかなかった。常に「よく分からないなぁ」と思いながら進んでいくこの状況は想像以上のストレスなのだが、その状態に慣れ、大胆に仮説を置いたり、分からないことを認めてどんどん聞いていったりする胆力は鍛えられたと感じている。

 

「異なるバックグラウンドをもつチームで協力してグループダイナミクスを生む力」

最初は気づかなかったのだが、「よく分からない」のは私だけではなく他のチームメンバーも同じであり、作ろうとしているビジネスプラン全体を最初から分かっているメンバーなどいなかった。英語で、しかも未経験の分野だと自分だけが何も分かっていないように感じてしまうし、他のメンバーが言っていることはどれも正しく聞こえてしまうのだが、そんなことは無く、どのメンバーも全て分かっているということはあり得ない

それに気づいてからは、自分の意見に自信がなくてもどんどん出せるようになったし、他のメンバーが言っていることにも突っ込んだり、分からないことは他のメンバーに積極的に聞き(その結果みんな分かっていないことが分かったりもしたw)確認していったりできるようになっていった。

この変化は私だけでなく他のメンバーも同じで、半年間を通して自分たちが何を分かっていて何を分かっていないのかが徐々に明らかになってきたように感じた。

こうした「みんなよく分かっていない」中でも、グループとしてのアウトプットの質を高めていくために、その良く分からない状態を受け入れ先行きが見えづらい中でもチームの雰囲気を保つ努力を怠らず、しかし必要な指摘や議論は厭わず、その中ではお互いに持っている知識を惜しみなく躊躇なく出し合い、また時には分かっているメンバーに任せるということを半年間行動し続けてきたことは良い経験になった。

このような質の高いチーム運営をチームの一員として経験できたのは、一重にハイスペックなチームメンバーに恵まれたおかげだと思っている。

 

「事業化の中で必要になる検討事項を整理し、優先順位をつけながら取り組む力」

これはMBAで学んだハードスキルを組み合わせて使うという側面について。

事業化プロセスの中には、マーケティング、戦略、組織、ファイナンス・会計、オペレーションなどあらゆる知識が求められる。またそれぞれの分野の中では、データの収集や分析、プライシング、ビジネスモデル分析、資金調達、EXITプランなど、より細かいハードスキルが必要になる。

ただしいつもその全てについて考え続けるというよりは、事業化のフェーズに応じて考えるべき事項とその深さが異なってくる

今回はビジネスモデルが何も決まっていない状態の中、まず業界内でのお金が動く仕組みから学び始め、どのような競合に対して誰にどのようなバリューを与えるか、そこからはいくら取れるのかという戦略・マーケの側面をまず検討し、そこがある程度固まってからオペレーションとファイナンスを少しずつ考え始めた。

ここまでを先学期のうちにまとめ、事業の魅力度を一度判断したあと、今学期に入ってからはGo-to-market戦略として具体的にどのようにゼロから自分たちのシェアを取っていくかについて考えるフェーズに入った。具体的には外部の研究所との協業という目標を取り入れ、それに伴いファイナンスマーケティングなども修正を繰り返してきた。

こうした先学期から続く全ての検討プロセスを自分の手を使って動かしてくることで、ゼロからの事業化について何をどのような順序でどこまでの深さで考える必要があるかという感覚がなんとなく掴めてきた。次に自分が未経験分野で事業を作るとしても、何から手をつけて良いか迷うということは無いだろう。

 

Financial Statement Analysis

財務諸表と企業を取り巻く状況をもとに企業の課題や成功要因を分析するとともに、企業価値の測定をできるようになることを目指したクラス。

ケーススタディとレクチャーが半々ずつで、ケースやレクチャーを通してバリュエーションや利益分析、M&Aなど個別の項目について学び、グループワークでは実際の企業を1社選定し(我々は映画館運営会社のAMCを選定)その企業についてケースとレクチャーから学んだ知識を活かして財務分析を行った。

 

1年ぶりに履修したファイナンス系授業だったのだが、若干苦戦を強いられることになった。

大量のスライドを高速で解説し、ケースのレクチャーもまとまりがあるとは言い難い教授のスタイルに翻弄されたということもあるが、自分の中でまだ学んだことが体系的に整理できていない感が若干残っている。

 

ただ、企業価値評価についてケースを通して一通り学び、実際に企業価値を何度も計算した経験は少なからず自信になった

特にデュポン分析やマルチプル法、DCF法を使った企業価値評価は学期を通してのグループプロジェクトで何度も使った上、L2Mのプロジェクトの中でも使ったことで、実務の中でも自分で情報収集をして使える自信がついた。

今後新たな事業の創出や新たな市場への販路拡大などをスピーディーに遂行するためには、社内リソースの育成・活用だけでなく、社外のリソースに対して積極的に投資していくことも必要となることが予想される中、MBAの最後のタイミングでバリュエーションについて学べた意義は大きいと感じている。

 

 

Creativity & Innovation

クリエイティブ(=新しく価値があること)な思考を個人・チーム・組織で実行するためにはどうすれば良いかをケースとレクチャーによって学んだクラス。

大量のリーディングと課題は苦しかったが、11人という少人数クラスと教授のキャラクターのおかげでゼミのような雰囲気の中で積極的に参加しながら学ぶことができた。

 

学期前半は個人が発揮するクリエイティビティとして、視野を広げて選択肢と解決策を挙げるための思考プロセス知識とクリエイティビティの関係と、持っている知識の引き出し方などについて学んだ。

また後半では前半で学んだフレームワークを応用し、チームや組織でのクリエイティビティとして、集団思考に陥らないようにするための思考プロセスクリエイティビティを引き出すための組織設計などについて学んだ。

 

これまでもこの授業については多く記載してきた通り、クリティカルシンキング、リーダーシップ、組織論を繋ぐ重要な学びが詰まった素晴らしい授業であり、コアクラスにしても良いとさえ思っている。

多くのことを学んだが、一番の収穫として挙げるのであれば、組織で新しいものごとを生み出すためのリーダーとしての振る舞い方をフレームワークに当てはめて理解できたことだろう。

学期の最初から最後まで通して繰り返し使ったフレームワークである「視野を広げる・知識の幅と深さを広げる・知識を活用する・クリエイティビティを妨げる要素に気づき能動的に排除する」という基本動作をケーススタディにあてはめて何度も分析することで、様々な状況下でも自分のチームをクリエイティブにするために何をすべきかの指針を得ることができた

このフレームワークや大量のケーススタディから学んだ具体例を通して、自分のチームに何が足りないのか、どうすればもっと新しく価値があることを生み出せるのかを考え実践していける自信は少し付いたような気がするので、あとは実際のビジネスの中でそれを使い、自社のポテンシャルを引き出せるリーダーになるべく行動するのみである。

Lab to Market、最終プレゼン

今週水曜日には、本校の看板授業であるLab to Marketの最終プレゼンテーションを行った。

半年間かけて検討してきた事業プランについて、ゲストである地場企業CEOや地場アクセラレーターのアドバイザの前で15分間のプレゼンを行うというもの。

内容は先週提出した最終レポートの内容をプレゼン化したものであり、私個人としては事業全体のフェーズ10年間の利益予想資金調達計画とその使い道について内容を作成、説明した。

 

今回のプロジェクトから学んだこと

これまでの実務経験に通じるところも多かったが、販売やコストについての仮説を立て、それらの仮説に基づき見通しを作り、市場の状況や自社サービスのバリューなどと数字をリンクさせることで現実味を持たせていくというプロセスは良い経験になった。

また、全くの未経験である医療機器の事業化というフィールドでも、アドバイザや経験のあるチームメンバーから必要な情報を引き出して短期間に医療機器メーカーの人間として必要な知識レベルに追いつくという経験も良い鍛錬になったと感じている。

自分の性格的に「(必要かに関わらず)全てを知ろうとしてしまう」という短所があると思っていたので、今後は「必要十分な部分だけを効率的に理解して結果を最速で出す」ということにフォーカスするように思考回路を切り替えて行きたい。

 

プレゼンの結果…

ゲストからのフィードバックとしては、

オープニングと最後のまとめの内容をもう少しリンクさせて、聴衆の大枠の疑問に対して最初に答えて(=事業の意義やインパクトを簡潔に伝えると理解)からスタートすること

技術的バックグラウンドの無い聴衆に対して、医療スタートアップの長いタイムスパンや研究と事業化の進み方を噛み砕いて説明すべき

というものだった。

 

そして結果として、招かれた3人のゲストの採点により8チーム中トップ3に選ばれ、次週水曜日に投資家とRadyDeanを招いた場でプレゼンする機会を得た。

 

ただ、このプレゼンを実際に自分たちでするかどうかでメンバー間で意見が分かれ、この週末にかけて少し議論をしている。

良い経験なのだし自分たちで掴んだチャンスなのだから自分たちでやるべきだという私に対して、他のメンバーの中には、このプロジェクトはそもそもバイオテックphDのラボから始まっており、そちらで会社組織を立ち上げようとしているので、投資を勝ち取るためにもそのラボのメンバーにプレゼンさせるべきだという意見の者もいる。

現在の案としては、よりプレゼンを聞きやすく一貫したものとするためにメンバーを絞ろうというところまでは一致しており、phDラボでこのプロジェクトをスタートさせたインド人学生か、同じラボから今回のL2Mに参加しているAugustineが事業概要や市場について説明し、事業計画と資金調達、エグジット戦略について私が説明するということになりそうだ。

これまで一緒にやってきたチームメンバーでもう一度プレゼンができないのは残念だが、もし自分がもう一度水曜日にチャンスをもらえるとしたら、今週のプレゼンをさらに磨き上げ、今できる最高のプレゼンをしたいと思う。

Lab to Marketのプロジェクト、いよいよ大詰め

今週のハイライトは何と言ってもLab to Marketの最終ビジネスプラン提出であった。

 

半年間かけて検討を重ねてきた新生児向け血液検査ビジネスについて、これまでに検討した全てを盛り込んで17ページのレポートにまとめたものを提出した。

その中には以下のような要素が含まれる。

・市場の成り立ちと現状の問題、それに対する我々のソリューションと競争優位性

マーケティング/Go-to-Market戦略

・資金調達/EXITプラン

・製造/オペレーション

・チーム

・見えているリスクとその回避策

 

まだ最終プレゼンを次週水曜日に控えてはいるものの、一旦ここでプロジェクトを振り返っておきたい。

 

グループの経緯

このプロジェクトはそもそも、バイオテックphD学生であるAugustineが、自分が研究している技術を先学期のL2Mの授業に持ち込んだことから始まっている。

当初Augustine以外の4人のMBAメンバーはバイオテックの知識は一切なく、彼から技術的なレクチャーを受けながらそれをなんとかビジネスサイドの文脈に載せ替えていくという進め方をしていた。

今学期に入り、新たなメンバーとして、ニューロサイエンスphDを持ち、現在も医療機器メーカーで働いているJerryを迎えたことで、AugustineJerryの技術屋2人が技術方面のインタビューや仕様検討などで主導権を握る一方、エンジニアリングバックグラウンドのXZXiaolingBryanが製造とマーケティング、私がファイナンスマーケティングを担当するという分担が徐々に明確になっていった。

 

チームダイナミクスについて

これまでも何度か書いてきた通り、このグループメンバーは誰か1人がバリバリと引っ張ってくというタイプではなく、みんな決めたことに沿って黙々と進めていくというタイプであったため、初動が遅くなってしまいがちであった。

しかし、一度スタートするとそこからアウトプットを出すまでの各メンバーの貢献度は凄まじく、MBAによくいる「フリーライダー」が発生することもなく、自分の担当分野以外についても自主的にチェックし、全員が全体に目を通しアウトプットに責任を持ち続けるという理想的なチーム運営ができていたと思う。

これも前に書いたが、この求心力を産んでいたのはやはり個々のメンバーの「やってみせる」というリーダーシップの示し方によるところが大きいと思う。それぞれが完全分業でただ進めるだけではなく、自分が作ったものをメンバーに見せて意見を聞いたり、叩き台を率先して作り議論を先導しあったりすることで、それに呼応するようにお互いが士気を高めて言っているのが見て取れた。

また、その過程ではお互いの作業内容を褒める言葉も頻繁に掛け合い、チームの雰囲気が悪くなることは一度もなかった。技術オリエンテッドなプロジェクトであるにも関わらず、技術屋2人が他のメンバーを軽視しなかったところもチームの雰囲気を良好に保てたポイントであったと思うし、そんな難しい内容についても技術経験のない4人がベストを尽くそうという姿勢を見せていた点も良かったと思う。

 

個人的なチームへの貢献について

これまでもMBAの多くのグループで考えてきた通り、このグループでも自分が何でならグループに貢献できるかは良く考えさせられた

上記の通り技術的な部分の主導権を明け渡さざるを得ない状況で、自分がこのチームメンバーに対する差別化要因とできるスキルは何かということを考えた時に、ファイナンスマーケティングという答えに行き着いた。

特にファイナンスについては、これまでの授業の中でも若干苦手意識を持っていたため、自分がこのチームのファイナンス的側面を責任を持ち担って良いのかかなり悩んだが、失敗を恐れていてはなんのためにMBAという擬似経営体験ができる場所に飛び込んだのかわからないと考え、とにかく手を付けることにした。

以前も書いた通り、とにかく打席に立ってバットを振り続けることが重要だ。 

結局その過程はかなり苦労して、勉強を重ねながら事業計画を作ることとなったが、会社全体の10年間の財務予想を1人で作るという経験は非常に得るものが多かった。BS、PL、キャッシュフロー、NPV、IRRについて、仮説を置きながら10年分の予測をするというファイナンス的な知識はもちろん、その前提条件となるマーケティング予想やオペレーションにも踏み込んで考えることもできた。

また、それらの財務予想を作り叩き台としてメンバーに見せたことで、他のメンバーの担っている各セクションを全てファイナンスという共通言語に結びつけて議論するという進め方にシフトさせることができ、チーム全体の議論を1つにまとめる役割も果たせたと思う。

 

来週水曜は最終プレゼンテーションであり、火曜日の夜まではプレゼンスライド作成に時間を費やすことになるだろう。水曜日のプレゼンがトップ2に選ばれれば、翌週に実際の投資家を招いた場でもう一度プレゼンをすることができる。チームとしては「ここまで真剣にやったんだからトップを取りに行こう」と気合が入っている。結果はともかく、2年間の集大成として全力のプレゼンをしたいと思う。

組織でクリエイティビティを高めるということ

水曜日のCreativity & Innovationはさらにスコープを拡げて、組織でのクリエイティビティについて。

組織は他社に先駆けて市場に入り、競合や外部環境の変化に対応し続けなくてはならないわけで、そういう一つ一つの行動の中にこの授業で定義づける”Creativity”(=新しくて価値のある考えを生み出すこと)が必要になる。

 

「正しい環境」のインパク

まず、組織として新しい価値のあるものを生み出していくには、その中にいる個人の能力はもちろん大事なのだが、それ以上にその優秀な各個人たちを「正しい環境」に入れてやることの方が大事である。

 

授業の中では、TVが発明されたプロセスを例にとって議論が進んだ。

TVの仕組みを最初に思いついたのはフィロ・ファーンズワースと言う個人発明家だ。ファーンズワースは個人研究所で家族や外部研究者の協力を得て、TVの試作品を作ることに成功していた。

しかし、それに目をつけたRCA社の研究者、ウラジミール・ツヴォルキンが身分を偽りファーンズワースの研究室を訪問、そこで見学した技術をRCA社に持ち帰り、RCA社内で研究を進めていった。

RCA社との特許紛争や資金集めに奔走するファーンズワースを横目に、RCA社の研究者たちは本業に集中、失敗を許容する環境の中で試行錯誤を繰り返し、どんどんTVの開発を進めていった。最終的にRCA社はファーンズワースからTVの特許を破格の100万ドルで買い取り、大々的にTVの販売を始めていった。

一方のファーンズワースはその後も様々な分野での研究を続けていったが、のちに資金繰りに苦労し研究所は解散、病気を患って失意の底で亡くなってしまう。

 

ファーンズワースは生粋の発明家であり、個人としては高いクリエイティビティの持ち主であったが、個人研究家として本業の発明以外の部分に時間と労力を取られることや、失敗が命取りになりかねない中での研究と言う点で、大企業であるRCAに勝つことが出来なかった。

一方RCA社のツヴォルキンは、発明したものの特許はRCA社に吸い上げられてしまうものの、TV開発に投じられた5000万ドルの資金を使い、失敗も許される自由な環境下で研究をすることが出来た。

このように、優秀な個人もそのクリエイティビティを発揮するための環境が整っていない中では大きな結果を出せない、つまり組織としてクリエイティビティを発揮するためには、優秀な人を集めるだけではなく、その優秀な人たちを正しい環境で働かせることがより重要だと言うことである。

 

ではどんな環境が「正しい環境」なのか

ケーススタディとしては、トイストーリーなどで有名なピクサーアニメーションスタジオを例にとり、組織がメンバーのクリエイティビティを引き出すためには何が必要かを分析していった。ピクサーエド・キャットムルとスティーブ・ジョブスが共同で設立し、2006年にはディズニーに買収され、今でもヒット作を次々に生み出している。

こうしたヒット作を生み出すためにピクサーが構築してきた環境について、社長のエド・キャットムル自身が以下のような点を挙げている。

 

あらゆる場面においてクリエイティビティが必要であると言うトップメッセージ

社長のエドは新たに雇った社員に対して、これまでピクサーが下した間違った判断などの事例を強調することにしている。それにより、新しく入った社員が違和感を持ったことについて素直に発言しやすいようにしていると言う。

先週学んだ「優秀なチームが間違った判断を下すとき」に起きていることとして、同調圧力や反対意見の封殺があった。これもまた同じで、新入社員は萎縮してしまいがちなところを、トップ自ら「Dアニメの雄であるピクサーでも間違っていることはたくさんあるので、どんどん指摘してほしい」と言うメッセージを出すことでそれを防いでいる。

 

リスクテイクの許容

エドは「我々トップこそ、人間の性であるリスクを回避したいと言う気持ちを消していかなければならない」と言っており、管理職の仕事をリスク回避ではなく失敗が起きた時にそれを何とかできるようにしておくことであると定義している。

こうした空気があることで、その下にいる社員は失敗を恐れずに新しいアイディアを試したり、間違っているかもしれないアイディアも発言したりすることができるようになっている。

 

社内各組織からのアイディアが集まる仕組み作り

エドによると、ピクサーの映画はある部署が作っているわけではなく、数百・数千の人たちのアイディアの結晶であると言う。それらを一つの映画に結びつけるには、信頼とお互いを尊重する関係づくりが必要だ。

ピクサー社内のルールには、どの部署の人間も、上司の承認を得ることなく、社内の誰とも自由に物事を相談しアイディアをやりとりして構わない、と言うものがある。アイディアがある人は自分の上司の承認を待たずにそれを誰にでも提供して良いと言うルールであり、これにより会社が分断されることなく、社内のアイディアが円滑に伝わり映画に注がれていくとのこと。

またピクサーのビルは、ジョブズのアイディアによりカフェテリアのあるアトリウムを真ん中に持っており、休憩のためにそこに色々な部署から社員が集まってくるように出来ている。カフェテリアの机は大人数で座れる長机になっており、そうしたところでも部署の垣根を超えた交流を促進するようになっている。

 

活発な議論促進と同調圧力の排除

ピクサーの制作陣は毎日進捗を報告し合う会議を行っており、その会議は「作りかけのものを見せても全然OK」と言うルールになっている。そのため、その会議のために綺麗なものを作ると言うことは発生せず、ラフなアイディアや上手く進んでいないものもどんどんその場に出し、正直なフィードバックを得て、それを持ち帰りまた作りと言うサイクルがスピーディーに回っている。

さらに、定期的に「ブレイントラスト」と呼ばれる社内上層部との制作状況確認の場があり、そこでもプロデューサーや他部署のトップからのフィードバックを受けることができるが、そのフィードバックを受け入れるか棄却するかは、制作しているディレクターのチームに任せられている。偉い人が言ったからそれに従わなければならないと言うことは無く、あくまでブレイントラストの意見はいち意見として参考にしながら、中心となっているディレクターが決定権を持ち続けている。

 

このように、組織としてのクリエイティビティも基本は先週まで学んできたチームでのクリエイティビティと同じであり、以下のようなポイントを押さえるためのルールを作り、トップダウンでルールを浸透させ、ボトムアップのクリエイティビティを引き出すことが重要なようである。

・多くの意見を取り入れる

・リスクを取り、アイディアを試せる

・鶴の一声に引っ張られない

・反対意見を誰でも自由に言える

・自分と違う意見を積極的に聞く

 

これを今の自分がどう活かすか

今の自分には「トップダウンでルールを浸透させる」ことはできない(トップじゃないので)が、ルールのない部分について自分が率先して行動して「正しい環境」での振る舞い方を周りに広めていくことはできる

鶴の一声に迎合したり、一つ見つけた解決策に突進することは楽だしある意味安全かもしれないが、それは自分たちが誤っている可能性に目を瞑っているだけだ。

 

このMBA生活の中でも言語的なディスアドバンテージがあるために、周りの言葉はほとんど鶴の一声に聞こえてしまう中で、なんとか自分の意見を聞いてもらったり、おかしいと思うところはしつこく言い続けたりする経験を積んできた。

それで気づいたことは、その時もし自分が言っていることがおかしかったとしても、そんなことは大した問題では無い、ということである。

10回に3回も正しいことが言えれば、聞く価値のあるメンバーとして存在感を示すことができる。裏を返せば、70%くらい間違っているかもなという意見でも、もしかしたらスペースシャトル・コロンビアの墜落を止めることができるかもしれない

そう信じて、帰国後もおかしいことにはおかしいと言い、リスクを取りながらアイディアを試し、また自分への反対意見にこそ耳を傾けるということを実践していきたい。

チームでの間違った判断について

水曜のCreativity & Innovationの授業は相変わらず素晴らしい授業だ。中間試験後の学期後半戦はグループでのクリエイティビティについて扱っており、今週は「なぜ優秀なメンバーを集めたチームでも間違った判断をしてしまうことがあるのか」について、スペースシャトル・コロンビアの事故等のケーススタディに基づいて分析し理解を深めるという内容だった。

 

誤った判断をしそうなチームとは

まず、誤った判断をしそうな兆候としては、以下のようなものが挙げられる。

・自信過剰や自分たちは大丈夫だという幻想

・自分の意見が正しいことを証明するものだけを見ようとしてしまうこと(Confirmation Bias

・チームの和を乱したくないという思い

・チームの意見に反対するものに対する偏見や馬鹿にする気持ち

同調圧力

・メンバー間に反対意見はないという幻想

 

こうした要素がある中で、間違った判断は次のような行動により発生する。

・取りうる選択肢の洗い出しを十分にしない

・良さそうな選択肢に潜むリスクを見ようとしない

・一度否定した選択肢は二度と振り返らない

・不十分な情報収集

・自分たちに都合の良い情報だけ収集する

 

NASAでも例外ではない

2003年に発生したスペースシャトル・コロンビアの空中分解事故は、こうした間違った判断により発生した。

コロンビアは打ち上げ時に剥がれ落ちた断熱材が外壁を損傷させ、その時に開いた穴から大気圏再突入の際に高温の空気が入り込んだことで空中分解、乗組員7名全員が死亡した。コロンビアが地球の軌道上にいる間に機体損傷を疑う声があったが、NASAによる十分な調査がなされないまま地球へ帰還することとなり、大惨事に繋がってしまった。この時NASAで起きていたことこそ、優秀なメンバーが揃っているはずなのに間違った判断をしてしまい、最終的に事故につながったという最悪のケーススタディだった。

上記のフレームに照らし、具体的には以下のようなことがあった。

 

同調圧力/メンバー間に反対意見は無いという幻想

飛行計画総合監督官であったリンダ・ハムを中心に、十分なディスカッションや検証がなされないまま物事が決められていった。

また、当時のNASAはかつてのNASAと比較すると職員の経歴がほぼ全員が大学院卒の新卒採用職員となっており、かつて様々な職歴を持った職員によって構成されていたチームと比較すると意見や物事の捉え方に対する多様性に乏しく、それも同調圧力やメンバー間の意見が揃っているという幻想の元になったと考えられる。

 

自分の意見が正しいことを証明するものだけを見ようとしてしまうこと(Confirmation Bias

人間はそもそも自分の意見が正しいという論拠だけを見ようとする性質があり(Confirmation Bias)、そのことが実際の能力以上に自分の判断を過信してしまう要因になっている。逆に自分の意見に対する反証となる理由を探すことで、自分の判断を客観的に見て、その判断の正しさを正当に予測できるようになる。

NASAMMT(ミッションマネジメントチーム)は、そもそも機体に問題があっても何もできることは無いだろうという考えから、問題は無いと結論づける方向に持っていこうという力が働いていた。そのため、機体には問題が無いと言えるための材料を探すことだけに注力することになった。

 

不十分な情報収集

NASAの技術者は外壁損傷を正しく評価するために、軌道上を周回しているコロンビアを撮影するように国防総省に依頼していた。しかし、MMTはそれらの検証を無駄であるとして棄却、国防総省への依頼も取り下げてしまった。

 

自分の意見の過信

上記2点とも関連するが、シャトルの外壁に損傷があるのを確かめるために高解像度の写真で分析することができたのだが、MMTはその写真を見る前に、解像度が低くて分析には不十分なはずだとして写真分析を断っている。実際にはMMTの技術者は写真の解像度が分析に十分かの判断をできる能力はなかった。

 

グループの意見に反対するものの無視

NASAの技術者とMMTのメールのやり取りの中で、断熱材が剥がれ落ちてシャトル外壁を直撃した際の損傷が致命傷になる可能性があることを示唆するものがあったが、MMTはそれを無視し、被害は微小であるはずと結論づけてしまった。

 

NASAのような優秀であるはずのチームでも、上記のような条件から7名のパイロットを失う歴史的事故を引き起こす判断をしてしまった。こうした判断の誤りは一般企業においても十分に起こりうることであり、つまり自分や自分のチームも日常的にこのような事態に陥る可能性があるということだ。

 

ではどうしたらこれを防げるか

上記の誤りは全て「視野の狭まり(Narrow Focusing)」が原因である。選択肢、情報、リスク評価など全てにおいて自分の見たいものしか見ないようになってしまったために誤った判断を招いている。これを防ぐには、ケネディキューバ危機の際に取った判断を成功事例として学ぶことができる。以下、キューバ危機時の対応とそこからの学び。

 

即座に取りうる選択肢を洗い出した

問題解決の第一歩は取りうる選択肢をフラットな視点で洗い出すことにある。この際、自分の「落とし所」に引っ張られて選択肢を狭めることがないように注意が必要。

 

反対意見と活発な議論の促進

特に、キューバ危機の際はケネディという「忖度」を招きやすい存在を外してのディスカッションが何度も行われている。これによって、同調圧力や皆同じ意見であるという幻想を持たずにディスカッションを重ね、反対意見同士をぶつけあうことができている。

 

2つのグループが独立して検討して判断を出す

1つのグループの意見や視野に引っ張られることが無いよう、メンバーを独立して動かすことで、それぞれの視点に基づく意見を出させ、議論させる土台を作っている。グループで思考停止に陥らないためには、メンバー個々がまず自分だけの意見を持つことが重要だ。

 

2人の職員があえて反対意見を出す役を演じた

英語では「Devil’s Advocate」と言われるが、あえて反対意見をぶつけることで、自分たちの意見に都合がいいものだけを見ようとするバイアスを意図的に回避している。グループの中ではこのように自分たちが決めようとしていることのリスクを積極的に挙げる動きが必要。

 

これらの行動は、全て「視野の狭まり」と逆行するようにできている。

例えば企業の中でも会議で偉い人が「結局こうするしか無いんだろうなぁ」「そうですね。。」と言っているのを聞いたことがある、という人も少なく無いのでは。そんな中で意識的に反対意見を述べて自分たちの判断に潜むリスクを指摘したり、自分たちの能力や判断を過信している状態からクールダウンさせる力を働かせる存在が必要だ。

一応社外の風を浴びて戻る人間としては、チームとして正しい判断ができるようにするために、こうした誤った判断を招く兆候を感じ取った時には、率先してそれを見直すように働きかける動きができるようにしていきたいものである。

コンフォートゾーンの拡げ方

こちらにきてもうそろそろ2年経つが、この2年の経験で自分のテーマの一つでもあった「コンフォートゾーンを飛び出し、拡げていく」ということを随分実行してくることができた、と振り返って思う。

アメリカに来た当初は今より英語もおぼつかず、知っている人は1人もおらず、何の信用も持たず、こちらでの常識やマナーなどもほとんど知らない状態であったが、そこから2年間経った今は今自分がいる環境、属しているコミュニティなどが「帰るべき場所」であるかのように感じられるまでになった。

 

これを作り上げることができた要素の一つとしては、泥臭い精神論のようであるが「食らいつく」ことが大きかったと思う。

慣れない言語や知らない専門用語の嵐で周りが何を言っているか分からない時でもお手上げにならず、自分がわかること、言えることをかき集めてなんとか発言の機会を作っていくことで、なんとか道が拓けていくという体験を何度もすることができた。

逆に諦めたらそこで試合終了である。

 

以前経営企画部にいた時は、一緒にミーティングをするメンバーが部門長と部長ばかりということも多く、かつ会話の内容も設備系の専門用語が多かったり暗黙の文脈が多かったりと、会話の内容が理解できないことも多かった。

それでもとにかく自分にできる準備をして、一緒に卓に付き、何か発言しまくっていると、徐々に「ここはこいつに任せるか」と仕事をもらえるようになってきていた。とにかく打席に立ってバットを振ることが大事なのだ。

その時上司であった経営企画部門長に言われた「やっぱりこうやって打席に立ってるとたまにはバットにボールが当たるようになるもんだな。まあお前なんかまだ打率05分くらいだけどな」という言葉は最高に嬉しかった。

 

Lab to Marketで取り組んでいるプロジェクトも医療系専門用語だらけで、ミーティングや調べ物は正直相当苦戦を強いられている。

それでも自分にできる事業計画の整理や資金調達計画の立案、プレゼンスライドの準備などを通してプレゼンやミーティングで少しでも発言し続けていると、徐々にグループの中でも自分の担当分野を作り、存在意義を示せるようになってきた。

逆に発言が全く無いメンバーもいるが、そういうメンバーは容赦無く無視されていき、打ち合わせにいなくても誰も気にしなくなるMBAの中では特にそれが顕著で、黙っているメンバーのことを誰も咎めたりしない代わりに、話題をわざわざ振ったり気にかけたりということもなくなる。

 

自分のコンフォートゾーンを広げていくためには、この苦痛に耐えて食らいつき、自分が活躍できるフィールドをジリジリと広げていくしかない。

打てる球が来る時だけ打席に立ってても3割打者にはなれないし、そもそもそんな選手にはここぞという場面で打順が回ってこない。

それは日本に帰ってからも同じであり、英語というハンディキャップが外れたからと言ってそのぬるま湯に浸かっていてはいけないし、新しいフィールドに向かっていき、「食らいついて」自分のコンフォートゾーンを広げていかないと、万年ベンチの選手で一生を終えることになってしまう。