Your focus determines your reality.

思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

文化が顧客の行動に与える影響

月曜日のConsumer Behaviorでは、3か月を通して「顧客の行動に影響を与える要素」について取り扱う。

これらの要素は大きいものから小さいものまで様々で、主に以下のようなものが挙げられる。

文化 (Culture / Subculture)

年齢・地域・性別等 (Demographics)

価値観・興味等 (Psychographics)

持っているニーズ (Needs)

個人の特性 (Individuals)

行動特性 (Actions, behaviors)

脳の働き (Brain Functions)

ニューロン、神経の働き (Neurons)

 

これらの要素は、言い換えれば「顧客」というものを分析する際の分析対象の単位となる。つまり、顧客のセグメンテーションを考える際の切り口になるということである。

 

今回の授業では、そのうちの最も大きな括りとして、「文化」について扱った。

「文化」を理解することで、異なる文化によって括られる顧客グループへのマーケティングを考える際、その文化が与える影響を踏まえた戦略を立てることができるようになるというのが狙いである。

 

そもそも「文化」とは何で、どこに表れるのか

これを考えるにあたり、授業では日本の寿司屋「すきやばし次郎を題材として取り扱った。

アメリカで作られたすきやばし次郎ドキュメンタリー映画Jiro  Dreams of Sushi(邦題:二郎は鮨の夢を見る)」の一部を観て、そこから日本の文化を汲み取る、という演習だ。映画はすきやばし次郎の店主である小野二郎氏にスポットを当てて、寿司の技を極めながら店を切り盛りする姿が淡々と描かれるものであった。

 

小野二郎氏は、毎日全く同じ生活を繰り返し、変化を嫌っている。

同じ電車の同じ座席に座って出勤し、同じように仕込みを行い、同じように淡々と寿司を握り続ける。自分の生活に変化が出てしまう正月休みが嫌いだという。

また、酒のツマミは一切出さず、メニューは「寿司おまかせ(30,000円~)」のみ。その代わり、日本最高レベルの寿司を出す。

 

幸い(?)この授業には日本人が私しかいなかったので、ここから感じ取れる日本的なエッセンスや、それが日本の文化とどう繋がっているかを解説する機会をもらえた。

授業内では以下のように発言した。

すきやばし次郎は単なるスシレストランではなく、小野二郎氏が創作する芸術を見せる美術館のような存在である

・小野氏にとって寿司はもはや「小さな宇宙」であり、小さなものに技を詰め込み美を表現する、日本人が持つミニマリズムの結晶である

・毎日淡々と同じことを繰り返していく中で寿司の技を磨いていく様は、一本の道を進んでいくことに似ており、茶道や剣道などと同じ「道」である

・これは日本の文化をよく表す例であり、すきやばし次郎は間違いなく日本を代表する寿司屋である(安倍総理オバマ前大統領を連れていった店でもある)

 

5分ほどの映像からでもこうしたことが読み取れる。

この演習は先学期のNew Product Development等で扱ったエスノグラフィという手法にも似ている。行動を観察することでその背景にある文化や価値観を読み取る手法である。

モデル顧客の行動から文化を読み取り、文化の異なる新たな市場でのマーケティングを考える際に顧客の行動を予測したり、顧客が求めるものの仮説を立てるための材料にしたりすることができる。

 

「文化」を踏まえた戦略

では、「文化」を汲み取ったとして、戦略にはどのように反映するのが良いか。

これはP&Gが日本に進出する際のケーススタディから学んだ。(すきやばし次郎から読み取れる文化とはまた別の話)

地場の文化を踏まえていない製品は競争力が弱い、逆に、文化に適応することが国際競争力を産むということがよく分かるケースであった。

 

P&G1972年に外資企業に対する規制緩和を受けて日本市場に進出した。

洗剤市場が15%の伸び率であり、洗剤使用量がアメリカの2倍であった日本は良い市場だった。洗濯用洗剤「チアー」で市場に参入した同社は、さらなるリサーチの結果、紙おむつ市場が参入しやすいと判断した。

かくして、アメリカでは爆発的人気であった紙おむつ「パンパース」で市場に参入したP&Gであったが、日本では不振が続いた。

その要因の一つが、日本人のおむつに関する文化であった。

 

日本人は他国と比較すると「きれい好き」である。そのため、オムツを取り替える頻度も高く、要求する品質も高い。アメリカでは1日に平均7~8回おむつを交換するのに対し、日本人の平均は14回である。

そのため、おむつにも「薄くてかさばらない」「見た目がすっきりしていて清潔感がある」「横漏れしない」など、アメリカ市場とは異なるニーズが多く、価格も高かったパンパースは日本人にはあまり受け入れられなかった。

これらのニーズに対し、1981年にはユニチャームが薄くて横漏れしづらい「ムーニー」で市場に参入し、急速にシェアを伸ばしていった。

 

日本の流通・販売に存在する文化もパンパースの妨げとなった。市場的には高価格帯であったパンパースだが、卸に落とすマージンは非常に薄く削っており、その点が薄利に馴染みの無かった日本の卸売に嫌われてしまった。対して、ムーニーはパンパースより販売価格は高かったが、卸に落ちるマージンが厚かったため、小売も積極的にムーニーを販売することにつながった。

 

また、他社商品との価格比較をあからさまに行う宣伝の文化が無い日本では、そのようなアメリカ式のプロモーションも敬遠されてしまった。

 

このように、アメリカでは爆発的に売れていたパンパースも、日本との文化の違いという壁を無視することはできず、参入から12年で赤字を出すことになってしまった。

ただ、そこはさすがのP&G、その後3年間で4度の改良を加え、世界一薄い紙おむつとして生まれ変わったパンパースは、9年間でシェアを10%から27%に伸ばし、日本一のブランドに返り咲くこととなった。現在では、日本法人社長はP&Gのグローバル社長になる人材が必ず通るキャリアパスの一つになっているという。