チームでの間違った判断について
水曜のCreativity & Innovationの授業は相変わらず素晴らしい授業だ。中間試験後の学期後半戦はグループでのクリエイティビティについて扱っており、今週は「なぜ優秀なメンバーを集めたチームでも間違った判断をしてしまうことがあるのか」について、スペースシャトル・コロンビアの事故等のケーススタディに基づいて分析し理解を深めるという内容だった。
誤った判断をしそうなチームとは
まず、誤った判断をしそうな兆候としては、以下のようなものが挙げられる。
・自信過剰や自分たちは大丈夫だという幻想
・自分の意見が正しいことを証明するものだけを見ようとしてしまうこと(Confirmation Bias)
・チームの和を乱したくないという思い
・チームの意見に反対するものに対する偏見や馬鹿にする気持ち
・同調圧力
・メンバー間に反対意見はないという幻想
こうした要素がある中で、間違った判断は次のような行動により発生する。
・取りうる選択肢の洗い出しを十分にしない
・良さそうな選択肢に潜むリスクを見ようとしない
・一度否定した選択肢は二度と振り返らない
・不十分な情報収集
・自分たちに都合の良い情報だけ収集する
NASAでも例外ではない
2003年に発生したスペースシャトル・コロンビアの空中分解事故は、こうした間違った判断により発生した。
コロンビアは打ち上げ時に剥がれ落ちた断熱材が外壁を損傷させ、その時に開いた穴から大気圏再突入の際に高温の空気が入り込んだことで空中分解、乗組員7名全員が死亡した。コロンビアが地球の軌道上にいる間に機体損傷を疑う声があったが、NASAによる十分な調査がなされないまま地球へ帰還することとなり、大惨事に繋がってしまった。この時NASAで起きていたことこそ、優秀なメンバーが揃っているはずなのに間違った判断をしてしまい、最終的に事故につながったという最悪のケーススタディだった。
上記のフレームに照らし、具体的には以下のようなことがあった。
同調圧力/メンバー間に反対意見は無いという幻想
飛行計画総合監督官であったリンダ・ハムを中心に、十分なディスカッションや検証がなされないまま物事が決められていった。
また、当時のNASAはかつてのNASAと比較すると職員の経歴がほぼ全員が大学院卒の新卒採用職員となっており、かつて様々な職歴を持った職員によって構成されていたチームと比較すると意見や物事の捉え方に対する多様性に乏しく、それも同調圧力やメンバー間の意見が揃っているという幻想の元になったと考えられる。
自分の意見が正しいことを証明するものだけを見ようとしてしまうこと(Confirmation Bias)
人間はそもそも自分の意見が正しいという論拠だけを見ようとする性質があり(Confirmation Bias)、そのことが実際の能力以上に自分の判断を過信してしまう要因になっている。逆に自分の意見に対する反証となる理由を探すことで、自分の判断を客観的に見て、その判断の正しさを正当に予測できるようになる。
NASAのMMT(ミッションマネジメントチーム)は、そもそも機体に問題があっても何もできることは無いだろうという考えから、問題は無いと結論づける方向に持っていこうという力が働いていた。そのため、機体には問題が無いと言えるための材料を探すことだけに注力することになった。
不十分な情報収集
NASAの技術者は外壁損傷を正しく評価するために、軌道上を周回しているコロンビアを撮影するように国防総省に依頼していた。しかし、MMTはそれらの検証を無駄であるとして棄却、国防総省への依頼も取り下げてしまった。
自分の意見の過信
上記2点とも関連するが、シャトルの外壁に損傷があるのを確かめるために高解像度の写真で分析することができたのだが、MMTはその写真を見る前に、解像度が低くて分析には不十分なはずだとして写真分析を断っている。実際にはMMTの技術者は写真の解像度が分析に十分かの判断をできる能力はなかった。
グループの意見に反対するものの無視
NASAの技術者とMMTのメールのやり取りの中で、断熱材が剥がれ落ちてシャトル外壁を直撃した際の損傷が致命傷になる可能性があることを示唆するものがあったが、MMTはそれを無視し、被害は微小であるはずと結論づけてしまった。
NASAのような優秀であるはずのチームでも、上記のような条件から7名のパイロットを失う歴史的事故を引き起こす判断をしてしまった。こうした判断の誤りは一般企業においても十分に起こりうることであり、つまり自分や自分のチームも日常的にこのような事態に陥る可能性があるということだ。
ではどうしたらこれを防げるか
上記の誤りは全て「視野の狭まり(Narrow Focusing)」が原因である。選択肢、情報、リスク評価など全てにおいて自分の見たいものしか見ないようになってしまったために誤った判断を招いている。これを防ぐには、ケネディがキューバ危機の際に取った判断を成功事例として学ぶことができる。以下、キューバ危機時の対応とそこからの学び。
即座に取りうる選択肢を洗い出した
問題解決の第一歩は取りうる選択肢をフラットな視点で洗い出すことにある。この際、自分の「落とし所」に引っ張られて選択肢を狭めることがないように注意が必要。
反対意見と活発な議論の促進
特に、キューバ危機の際はケネディという「忖度」を招きやすい存在を外してのディスカッションが何度も行われている。これによって、同調圧力や皆同じ意見であるという幻想を持たずにディスカッションを重ね、反対意見同士をぶつけあうことができている。
2つのグループが独立して検討して判断を出す
1つのグループの意見や視野に引っ張られることが無いよう、メンバーを独立して動かすことで、それぞれの視点に基づく意見を出させ、議論させる土台を作っている。グループで思考停止に陥らないためには、メンバー個々がまず自分だけの意見を持つことが重要だ。
2人の職員があえて反対意見を出す役を演じた
英語では「Devil’s Advocate」と言われるが、あえて反対意見をぶつけることで、自分たちの意見に都合がいいものだけを見ようとするバイアスを意図的に回避している。グループの中ではこのように自分たちが決めようとしていることのリスクを積極的に挙げる動きが必要。
これらの行動は、全て「視野の狭まり」と逆行するようにできている。
例えば企業の中でも会議で偉い人が「結局こうするしか無いんだろうなぁ…」「そうですね。。」と言っているのを聞いたことがある、という人も少なく無いのでは。そんな中で意識的に反対意見を述べて自分たちの判断に潜むリスクを指摘したり、自分たちの能力や判断を過信している状態からクールダウンさせる力を働かせる存在が必要だ。
一応社外の風を浴びて戻る人間としては、チームとして正しい判断ができるようにするために、こうした誤った判断を招く兆候を感じ取った時には、率先してそれを見直すように働きかける動きができるようにしていきたいものである。