Your focus determines your reality.

思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

組織でクリエイティビティを高めるということ

水曜日のCreativity & Innovationはさらにスコープを拡げて、組織でのクリエイティビティについて。

組織は他社に先駆けて市場に入り、競合や外部環境の変化に対応し続けなくてはならないわけで、そういう一つ一つの行動の中にこの授業で定義づける”Creativity”(=新しくて価値のある考えを生み出すこと)が必要になる。

 

「正しい環境」のインパク

まず、組織として新しい価値のあるものを生み出していくには、その中にいる個人の能力はもちろん大事なのだが、それ以上にその優秀な各個人たちを「正しい環境」に入れてやることの方が大事である。

 

授業の中では、TVが発明されたプロセスを例にとって議論が進んだ。

TVの仕組みを最初に思いついたのはフィロ・ファーンズワースと言う個人発明家だ。ファーンズワースは個人研究所で家族や外部研究者の協力を得て、TVの試作品を作ることに成功していた。

しかし、それに目をつけたRCA社の研究者、ウラジミール・ツヴォルキンが身分を偽りファーンズワースの研究室を訪問、そこで見学した技術をRCA社に持ち帰り、RCA社内で研究を進めていった。

RCA社との特許紛争や資金集めに奔走するファーンズワースを横目に、RCA社の研究者たちは本業に集中、失敗を許容する環境の中で試行錯誤を繰り返し、どんどんTVの開発を進めていった。最終的にRCA社はファーンズワースからTVの特許を破格の100万ドルで買い取り、大々的にTVの販売を始めていった。

一方のファーンズワースはその後も様々な分野での研究を続けていったが、のちに資金繰りに苦労し研究所は解散、病気を患って失意の底で亡くなってしまう。

 

ファーンズワースは生粋の発明家であり、個人としては高いクリエイティビティの持ち主であったが、個人研究家として本業の発明以外の部分に時間と労力を取られることや、失敗が命取りになりかねない中での研究と言う点で、大企業であるRCAに勝つことが出来なかった。

一方RCA社のツヴォルキンは、発明したものの特許はRCA社に吸い上げられてしまうものの、TV開発に投じられた5000万ドルの資金を使い、失敗も許される自由な環境下で研究をすることが出来た。

このように、優秀な個人もそのクリエイティビティを発揮するための環境が整っていない中では大きな結果を出せない、つまり組織としてクリエイティビティを発揮するためには、優秀な人を集めるだけではなく、その優秀な人たちを正しい環境で働かせることがより重要だと言うことである。

 

ではどんな環境が「正しい環境」なのか

ケーススタディとしては、トイストーリーなどで有名なピクサーアニメーションスタジオを例にとり、組織がメンバーのクリエイティビティを引き出すためには何が必要かを分析していった。ピクサーエド・キャットムルとスティーブ・ジョブスが共同で設立し、2006年にはディズニーに買収され、今でもヒット作を次々に生み出している。

こうしたヒット作を生み出すためにピクサーが構築してきた環境について、社長のエド・キャットムル自身が以下のような点を挙げている。

 

あらゆる場面においてクリエイティビティが必要であると言うトップメッセージ

社長のエドは新たに雇った社員に対して、これまでピクサーが下した間違った判断などの事例を強調することにしている。それにより、新しく入った社員が違和感を持ったことについて素直に発言しやすいようにしていると言う。

先週学んだ「優秀なチームが間違った判断を下すとき」に起きていることとして、同調圧力や反対意見の封殺があった。これもまた同じで、新入社員は萎縮してしまいがちなところを、トップ自ら「Dアニメの雄であるピクサーでも間違っていることはたくさんあるので、どんどん指摘してほしい」と言うメッセージを出すことでそれを防いでいる。

 

リスクテイクの許容

エドは「我々トップこそ、人間の性であるリスクを回避したいと言う気持ちを消していかなければならない」と言っており、管理職の仕事をリスク回避ではなく失敗が起きた時にそれを何とかできるようにしておくことであると定義している。

こうした空気があることで、その下にいる社員は失敗を恐れずに新しいアイディアを試したり、間違っているかもしれないアイディアも発言したりすることができるようになっている。

 

社内各組織からのアイディアが集まる仕組み作り

エドによると、ピクサーの映画はある部署が作っているわけではなく、数百・数千の人たちのアイディアの結晶であると言う。それらを一つの映画に結びつけるには、信頼とお互いを尊重する関係づくりが必要だ。

ピクサー社内のルールには、どの部署の人間も、上司の承認を得ることなく、社内の誰とも自由に物事を相談しアイディアをやりとりして構わない、と言うものがある。アイディアがある人は自分の上司の承認を待たずにそれを誰にでも提供して良いと言うルールであり、これにより会社が分断されることなく、社内のアイディアが円滑に伝わり映画に注がれていくとのこと。

またピクサーのビルは、ジョブズのアイディアによりカフェテリアのあるアトリウムを真ん中に持っており、休憩のためにそこに色々な部署から社員が集まってくるように出来ている。カフェテリアの机は大人数で座れる長机になっており、そうしたところでも部署の垣根を超えた交流を促進するようになっている。

 

活発な議論促進と同調圧力の排除

ピクサーの制作陣は毎日進捗を報告し合う会議を行っており、その会議は「作りかけのものを見せても全然OK」と言うルールになっている。そのため、その会議のために綺麗なものを作ると言うことは発生せず、ラフなアイディアや上手く進んでいないものもどんどんその場に出し、正直なフィードバックを得て、それを持ち帰りまた作りと言うサイクルがスピーディーに回っている。

さらに、定期的に「ブレイントラスト」と呼ばれる社内上層部との制作状況確認の場があり、そこでもプロデューサーや他部署のトップからのフィードバックを受けることができるが、そのフィードバックを受け入れるか棄却するかは、制作しているディレクターのチームに任せられている。偉い人が言ったからそれに従わなければならないと言うことは無く、あくまでブレイントラストの意見はいち意見として参考にしながら、中心となっているディレクターが決定権を持ち続けている。

 

このように、組織としてのクリエイティビティも基本は先週まで学んできたチームでのクリエイティビティと同じであり、以下のようなポイントを押さえるためのルールを作り、トップダウンでルールを浸透させ、ボトムアップのクリエイティビティを引き出すことが重要なようである。

・多くの意見を取り入れる

・リスクを取り、アイディアを試せる

・鶴の一声に引っ張られない

・反対意見を誰でも自由に言える

・自分と違う意見を積極的に聞く

 

これを今の自分がどう活かすか

今の自分には「トップダウンでルールを浸透させる」ことはできない(トップじゃないので)が、ルールのない部分について自分が率先して行動して「正しい環境」での振る舞い方を周りに広めていくことはできる

鶴の一声に迎合したり、一つ見つけた解決策に突進することは楽だしある意味安全かもしれないが、それは自分たちが誤っている可能性に目を瞑っているだけだ。

 

このMBA生活の中でも言語的なディスアドバンテージがあるために、周りの言葉はほとんど鶴の一声に聞こえてしまう中で、なんとか自分の意見を聞いてもらったり、おかしいと思うところはしつこく言い続けたりする経験を積んできた。

それで気づいたことは、その時もし自分が言っていることがおかしかったとしても、そんなことは大した問題では無い、ということである。

10回に3回も正しいことが言えれば、聞く価値のあるメンバーとして存在感を示すことができる。裏を返せば、70%くらい間違っているかもなという意見でも、もしかしたらスペースシャトル・コロンビアの墜落を止めることができるかもしれない

そう信じて、帰国後もおかしいことにはおかしいと言い、リスクを取りながらアイディアを試し、また自分への反対意見にこそ耳を傾けるということを実践していきたい。