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思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

インフラ企業での新サービス作り

ドコモのレンタサイクルに見るインフラとサービスの関係

株式会社ドコモ・レンタサイクルが運営する都内のレンタサイクルが便利である。「赤い自転車」と言えば、特に山手線近辺の方、湾岸エリアの方はイメージできる方が多いのではないだろうか。

この自転車、すごく便利なんだけどサービスとしては全然ダメダメだなと思う。競合もいないし、もしかしたらやり方もよくわからないので、UX改善に全然力入れてないんだろうなと。

その理由を少し書き出してみる。

 

1. UIがダメ

・アプリから自転車の充電状況が見られないので、現地で充電されてるかなど確かめて
 からじゃないと使えない
・地図でポートを探すとき、少しでも地図を動かすとポートの再検索が走り、
 時間がかかる
・地図上のポートマークに何台使えるかが表示されていないので、ポートマークを
 タップして一つずつ開け、自転車が1台以上停まっているポートを探す必要がある
・アプリに文字が多すぎる
・自転車の車体番号を選んで予約するという謎のオプションがある
・「ポート検索」メニューから借りるのが圧倒的に簡単なのだが、その横に「借りる」
 というメニューがあり、これが非常に使いづらく、混乱を招きやすい 

2. オペレーションがダメ

・ポートにある自転車の半分はなぜかアプリに出てこない
・出てくる自転車はほとんど充電されてない
・そもそもポート間で自転車が偏りすぎてて、自転車が0台のポートばかり
・逆に停めようとしても自転車が溢れてて停められないポートも

 

NTTグループらしいなと思うのが、仕組みづくりに全力投球する一方で、UI/UXがほったらかしなところである。数十の自治体を繋いでサービス展開してるところや料金が安価なところは見事だけど、使い勝手は悪いし、全然改善されていかない。以前日本にいた2年前からサービスがほとんど進化してないと感じる。

 

アメリカで激戦のLIMEBIRDなどのシェアスクーターは、車体や料金での差別化が効かない分、UIとオペレーションの改善スピードがメチャクチャ速い。
サービスインから半年ほどの間にアプリや車体の配備状況が日々変わり、それに伴って会社間の競争状況も日々シビアに変わる。数日前には見なかった事業者が一気に台数を増やしていたり、その逆も然りである。

 

一方、ドコモのレンタサイクルはほぼ独占なので、インフラだけ整えればとりあえず安泰だ。でもそれに安心しているのか、サービスの質が一向に改善されない。
破壊的イノベーションが出てきたら一瞬でひっくり返されて廃れてしまいそうである。

 

このアプリ、どれだけのユーザに使わせて声を拾ってるんだろうか。出したらもうユーザの声なんて聞いてないんじゃないかと思われる。
言われた事だけ何となく受け取るのは、ユーザの声を聞くことには入らない。仮説を立て、それをユーザと一緒に検証することを繰り返していかないと、インフラはサービスにはならないのだ。

 

では、自分たちの議論はどうか

先日、グループ会社の人たちと研修のような場で新事業創出のグループディスカッションをする機会があった。「モビリティ」をテーマに議論し、かなり盛り上がったのだが、議論をしていて気になったことがあった。

 

私世代か、少し下のアラサー世代でも皆すぐに「座組みを広げる」ことや、「他のプレイヤーを巻き込む」こと、「新しい技術を使う」ことばかり議論したがるのだ。
それよりもっと前に、サービスを作っていくにあたっては、顧客はどこにいるのか、Painは何なのか、市場はあるのかなど、検証すべきことは山ほどある

 

それなのに、「誰のどんなpainを解決するサービスなのか」も定まらないから、議論しているうちにすぐ前提がブレてしまっていた。地方の話だったのに急に都心の話になったり、若者向けの話をしていたのに急に中高年層の利用シーンを想定してみたり。
それでも議論は続き、自治体を巻き込んで、AIを使って、自動運転にしてとどんどん盛り盛りに。

 

ニーズや市場の大きさのラフな検証なら簡単なサーベイや机上計算でも全然できるし、Minimum Viable Product(MVP)で超初期の仮説検証をするだけならAIも自動運転も必要ない。
でもついつい「何か新しいもの、すごいものを」と考えていると、そういうバズワードを盛り込んだり、誰か大きなプレイヤーを動かしたくなってしまうようだ。

 

鶴の一声

さらにこの話はもう一つ恥ずべきことがある。

実はAIと自動運転を使おうと言い出したのは、アドバイザとして同席していたあるグループ会社の常務だった。
「通勤時間を有効活用できるサービス」を検討中だったのに、それまで黙って議論を見ていた常務の「AI自動運転通勤バスってどう?」という鶴の一声に、メンバーが一斉になびいてしまった。「いいですね!!」と。

 

車の中でも快適に仕事ができるようなモビリティサービスの検討をしていたはずで、それが自動運転であることやAI(何に使うのかは不明…)を使うことは、少なくともその時点で見えていたニーズに答える要素として全く必要ないはずだった。

でも幹部が挙げたバズワード満載のソリューションに飛びついてしまう若手。ここにうちのグループのサービス作りの進み方が凝縮されているような気がした。

 

まずはMVPとして、運転手を一人雇ってうちの社員で実証実験したら良い、という意見を上げ続けたが、その後の検討でも自動運転がなんとなく所与のものとして張り付いてきてしまい、気持ち悪かった。

 

この問題は相当根深くて、ドコモのレンタサイクルとも同じ構図だなと感じる。

「座組み作り」に全力を尽くす一方で、そもそも「誰の何を解決するサービスか」というコンセプトが不在なので、サービスとしての軸やUXの改善が全然進まない。それなのに、ツールとしての座組みやテクノロジーの話に飛びついてしまう。幹部すらそんな状態なので、若手で議論をしていてもその文化や空気に支配されてしまうことは最もだ。

 

プロダクトマネジャーがすべきは?

コアターゲットを定めることは切り捨てるべきユーザを決めることにも似ている。しかしそこが定まっていないので、長い意思決定プロセスの中で色んな偉い人に言われる色んなユーザニーズへの対応を断りきれず、結局は玉虫色で角の取れた、まるーいサービスができあがる。それは誰にも刺さらない。

 

プロダクトマネージャーとしてするべきは、初期段階から誰の何を解決するプロダクトか、そしてそこに市場はあるのか、勝ち目はあるのかを素早く徹底的に検証することだろう。
そのうえでそれが定まったら、勇気を持ってそれ以外の市場は切り捨て、ひたすらその狙いに向けてプロダクトを研ぎ澄ますのみである。

 

先日の議論中もそれを色んな言い方で主張したが、やはり言葉だけでは伝わりにくかった。というか、みんな早く出来上がりイメージを描きたいし、それは大きくカッコいいものであってほしいと願っている。地味なサーベイとかするより、自治体やイケイケのベンチャーと組みたいのだ。

 

それを変えるには、自ら時間を作ってそういう地味な検証をスピーディーに繰り返し、その結果を周りに示して動かし続けるしかない。

 

Intrepreneurが立ち向かうべき苦労の1つはこういうことなのかもしれない。