Your focus determines your reality.

思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

クリエイティブ思考と知識の深さ・幅の関係

水曜夜のCreativity & Innovationは、クリエイティブな思考についてケースを通して学んでいく異色の授業。

抽象的になりがちな「クリエイティブ」という言葉を「新しいこと」+「価値があること」と定義づけ、クリエイティブなアイディアがどのように産まれるのかを学ぶことで、自身がクリエイティブになるためのヒントを掴むという授業である。

2週目となる今週は、クリエイティブ思考と知識との関係性について学ぶこととなった。

 

Adjacent Possible

前提として、クリエイティブなアイディアは突然何も無いところからは生まれない。アイディアはこれまでの経験、これまでに得られた見解、これまでに学んだ事実に基づいて生まれるものであり、新しいアイディアは既存のアイディアを新しい組み合わせで使うか、既存のアイディアを新しいものに適用することで生まれる。

これは革新的だと言われるようなアイディアも同じで、突然変異で生まれるのではなく、既存のものの上に積み上げていくものである。

この時、既存のアイディア、知識、技術、問題解決方法を元に組み立てられる次なる新しいアイディアを"Adjacent Possibleと呼ぶ。革新的なアイディアも既存の知識に「隣接した(Adjacent)」ところから生まれるし、長期的な革新も隣接の隣接の隣接のを伸ばしていった先に成し遂げられるものである。ちなみに既存のアイディアは"Current building blocks"と呼ばれる。

この概念を理解するため、授業の中ではショートケーススタディとして、映画「アポロ13」を扱った。

酸素タンクにトラブルが発生、避難した先の月着陸船でも船内の二酸化炭素排出が追いつかず、急遽対策を取らなくてはならないことに。状況を見ていたヒューストンでは、月着陸船の空調設備と司令船のフィルターをつなぐ「アダプタ」を急遽考案することになった。この時使えるのは船内にあるものだけであり、ヒューストンのメンバーは船内にあるのと同じ材料を机の上に広げ、それらを使っていかに問題を解決するかを考え始める。まさにこの時机の上にあるものはCurrent building blocksであり、彼らがしていることはまさに、それらを組み合わせたりすることでAdjacent Possibleを探っていくことに他ならない。

ここから言えることは、クリエイティブな考え方をしよう!と意気込むのであれば、いきなり突飛なアイディアを考えようとするのではなく、まずは現行の最新のことをしっかりと学び、それらをどう組み合わせたり、違う分野に応用したり、少し変えてみたりすると問題解決につながるかという考え方をするべきだということである。

ビジネスも当然その通りで、新しい収入源を立てようとするならば、現在の市場や自社、競合のことを知っている必要があるし、既存の商品やビジネスモデルを新しい分野や市場に応用できないか、既存のアセットを新しい使い方で活用できないかなどを考え、意識的にAdjacent Possibleを模索していくことが重要だ。

 

Negative Transfer

では知識があればあるほど新しいアイディアは生まれやすいかというと、そうではないという説がある。既存の知識にとらわれてしまい、新しいアイディアを生み出す足かせとなる、というよく言われがちなことが、様々な実験により証明されている。

その一つがドゥンカーのロウソク問題だ。机の上にあるロウソク、マッチ一式、箱に入った20個ほどの画鋲を使って、壁にロウソクを安全な方法で固定せよ、という古典的な思考力試しのテストである。

答えは画鋲の箱を画鋲で壁に固定してその上にロウソクを立てるというものだが、この問題の正答率が低いのは「箱は画鋲の入れ物だ」という固定観念にとらわれてしまい、その箱を使うことに頭が回らなくなるからである。その証拠に、画鋲の入った箱の代わりに空っぽの箱が置いてある場合に正答率は格段に向上する。

つまり、人間は一旦学んだことや思いついたことを潜在的に新しいことにも応用しようとしがちであり、逆にその既存の考え方から抜け出して新しいモノの見方や考え方を考え続けるのは難しい性質を持っている。このように、捕らわれる必要のない既存の概念を他のものにも当てはめてしまい思考が狭くなることをNegative Transferという。

Current building blockに基づいてAdjacent possibleを探す時には、自分がそのBlockにとらわれやすいということを意識しておくことが必要だろう。

 

知識の深さ/幅はクリエイティブ思考の助けになるか

逆に、何かを創造するためには本当に知識や経験が必要なのだろうか。よく新入社員などに「まっさらな視点で見た方が創造的な思考ができる」などと言われるが、どうだろうか。

クラスの中では様々な時代の音楽家を例にとり分析をしていった。1989年にヘイズが76人のクラシック音楽家の創作について研究した結果によると、彼らの残した500曲にも上る「傑作」と言われる作品は、いずれも作曲者が8年以上のキャリアを積んで以降に書かれたものであり、さらに10年以内に書かれたものはたった3曲だけであったという。これはモーツァルトのような天才にも漏れなく当てはまり、「10年説」として確立された考え方である。ヘイズは同じ分析を131人の画家、66人の詩人に対しても行なったが、結果は同様であった。

つまり、世に傑作と言われるような大創造をするまでにはそれなりの経験が必要であり、無からいきなり傑作が生まれることは(たとえ天才であっても)無いと言えるだろう。

我々凡才は、創造的な思考を目指しながら経験を積み上げ、しかしその経験にとらわれないように意識しながら、そこからAdjacent possibleを模索するという方法が良いようである。