新サービスへの顧客の心理
今週のNew Product Developmentは、顧客が新サービスに対してもつ心理的効果について。自分の過去の経験を振り返って耳が痛いものもあったので、ここにまとめておこうと思う。
Endowment effect(授かり効果)
顧客は自分がすでに持っているものを高く評価しがちである。例えば、コーヒー1杯をいくらで買うか/売るかというアンケートを取ると、自分が売る場合の値段として人が付ける平均値は$7.12であるのに対し、自分が買う場合の値段は平均$3.12になるという。
この根本には、人は自分が持っているものを失いたくないという言わば「変化・損失への恐れ」のような心理(次に記載)がある。
新製品がいかに優れたものであったとしても、自分が今使っている商品からの変化や、今使っているものの機能が失われることに対しての恐れが顧客の心理に潜在的に働いてしまい、新製品の価値を低く見積もることが多い。
Status Quo Bias(現状維持バイアス)
授かり効果の根本にある心理で、人は基本的に変化を避け、現状維持する方向を高く評価しやすい。
例えば、コーヒー1杯と、それと同価値だとされたチョコレートとのどちらかを与えられた場合、与えられたコーヒーかチョコレートをもう片方の物と交換したいかと聞かれると、9割の人がNoと答えるという実験結果がある。
自分が何も持っていない時と、自分が何かを持ったあとでは、物事の価値の測り方が気づかないうちに変わってしまうのだ。
企業側から見れば、現状維持バイアスを乗り越えて届くほどの新しい価値を提供するか、現状から変わることを感じさせない形での価値提供を考える必要がある。
Mismatch / 9x Effect
上記2つの効果の掛け合わせのようなものだが、顧客は新たなものより既存のものの価値を3倍高く見積もってしまい、開発者は既存のものより新たなものの価値を3倍高く見積もってしまう傾向にある。
これを掛け合わせると、顧客と開発者の間には9倍もの隔たりがあると言える。
個人的には、これはかなりの企業が陥っていると感じており、それを防ぐためにも開発段階から顧客を巻き込んで何度も仮説検証をしていくことが重要だと思っている。
例えば、食器洗浄器用の洗剤。授業の中では「好きでも嫌いでもない商品」をそれぞれの学生が紹介したのだが、私が紹介した商品がこれである。企業側は化学的にいかに優れているかなどを自信満々でアピールするが、顧客側にそれが伝わることはあまりなく、既存の使い慣れたブランドにかかる現状維持バイアスを乗り越えられない商品が多いと想定される。
こうした企業の「独りよがり」に陥らないためにも、勘と経験のみに頼らない、テストマーケティングを通して得たデータに基づいた判断プロセスを身につけておく必要があるのだろう。