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思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

業界標準と東芝の見事な撤退

木曜日のTechnology and Innovation Strategyでは、デファクトスタンダード業界標準)について扱った。

授業で扱ったケースの一つは、もはや定番かもしれないが、Blu-rayHD DVDの基準争いについて。DVDの後継規格となる映像メディアの業界標準を、ソニーを中心とするBlu-ray陣営と東芝を中心とするHD DVD陣営とに別れて争った事例だ。

これは個人的にも思い入れのあるケースであり、興味深く取り組んだ。

 

業界標準を勝ち取るには

いくつかの要素が挙げられるが、授業の中では以下のフレームワークに沿って状況を見ていった。

 ・ユーザの獲得

 ・知財所有権

 ・技術革新を起こせる技術力

 ・先行者優位性

 ・生産力

 ・補完財の強さ

 ・ブランド名と評判

授業の中では、ブランドや生産力、技術力などでは互角であったソニー東芝だったが、ユーザの獲得と補完財である映画産業の取り込みで東芝が劣ってしまい、最終的にBlu-rayに軍配が上がったという解説になっていた。

 

もう少し踏み込んでみると

実は父が当時東芝HD DVDの生産管理マネージャーをしていたこともあり、この状況は近くでよく見ていた。今回も、事前に当時の状況を聞き込んでおき、クラスの中では以下のようなもう少し踏み込んだストーリーをシェアすることができた。

東芝が分析している自社の一番最初の敗因は、授業のフレームワークでいうと先行者優位性を逃して、ユーザを取り込み遅れたことだった。東芝の記録再生装置の初回出荷が遅れた一方で、2007年にソニーはシェアを伸ばしていった。

その後、ワーナーが20081月に入りBlu-ray支持を表明したことで、補完財であるソフトの供給が一気にBlu-ray優勢となり、勝負がついた形であった。

 

見事な撤退

ただ個人的には、業界標準を勝ち取るための要素も勉強になったのだが、それよりも東芝撤退戦略に学ぶところが多いと思っている。


東芝の撤退戦略は見事だったと当時から思っている。

東芝ワーナーのBlu-ray支持発表直後である2008年2月に撤退を発表した。東芝幹部は、巨額設備の必要な原子力半導体は他社ではまねができないが、巨額設備の不要なアセンブリ技術で製造できる光ディスク装置はいずれ中国やアジアの安価な地域に流れるだろうと考え、しかも将来コンテンツは光ディスクではなく配信に取って代わられていくので、早めに半導体モリー(例えばSSD)に技術者を移すべきだと考えていた。


実際、東芝の撤退発表後、東芝の株価は素早い撤退表明を評価されて上昇したと共に、夏までに全ての生産設備を他社に売り渡すことに成功し、その直後に来たリーマンショックの影響を最小限に止めることに成功している。

 

東芝ソニーのもっとも大きな違いは、この次世代映像メディアというソリューションの捉え方だった。

ソニーDVDの後継としてブルーレイが長期的なソリューションになると思っていた一方で、東芝はその先にすぐ来るであろう配信時代を見越し、次世代メディアは短期的なソリューションになるだろうと考えていた。

それよりも、重い設備が必要な原子力半導体、ハードディスクが強い自社のポートフォリオをにらみ、配信にはハードディスクと半導体メモリが必須だと考え、早くからその分野に技術者を移すことを読んでいた。

光ディスクでレッドオーシャンの戦いを続けるよりも将来的に波が来る配信に備える方が良いという判断は実際に功を奏し、東芝は当時の難を逃れることができた。

 

東芝の撤退戦略からの学び

これは業界標準に限らず、例えば自社事業が成熟しきってこれ以上の増収がオーガニック成長では望めない場合の方針転換についても適用できる好例だろう。

既存事業の新しい戦略を実行していくことも重要だが、リーダーはその先に来るべき新しい事業や、適応するべき新たな技術革新の波に備え、リソースの再配分や組織の再構築を早めに動かし始めること、場合によっては既存事業の撤退基準を考えておき、基準を超えたらすぐに方向転換できるように備えておくことも必要だ

その際、自社の持っているアセットを再分析し、どの方向に転換するかを見定め、組織を説得して動かせる能力が必要になってくるだろう。

 

この2年間の留学経験で培っているものは間違いなくそのベースになってくれると実感しているし、実務の中でもこのベースの上に経験を積み上げることでさらに力をつけていきたい。