”Embrace”という概念

こちらに来てから、アメリカの良い文化だと思っていることがある。”Embrace”という概念である。

日本語に訳すと「抱きしめる」という意味が一番に出てくるのだが、アメリカではそれ以上に別の意味で使われることの方が多い。

それは「何か外からやってきたものごとを、興味と関心を持って受け入れ、楽しむ」というような意味合いであり、これにピッタリ当てはまる日本語がなかなか無い。

ケンブリッジ英英辞典を引くと、２番目の意味として”to accept something with great interest or enthusiasm”という説明が出てくるが、これに近い。

このEmbraceという精神は、英語だとワンワードで表すことができる上にアメリカ人がよく使うだけあり、こちらの人たちの基本的なスタンスになっているように思える。

不確実なことや、知らないことなども「興味と関心を持って受け入れて、楽しむ」ことが基本動作として身に付いているのだ。だから彼らは知らない人ともどんどん話して仲良くなるし、知らない事に対する吸収力ももの凄く高い。

これまでリーダーシップやマーケティングなどの授業でも例に出されてきたが、一つのことを正確に繰り返し改善し極めていくのが得意な日本人は、不確実なことや新しい事に対するリスクを嫌う傾向にあるようだ。

何かを改善しながら極めていく能力は、１を１００にする事には滅法強いが、それだけでは０から１を生み出す事は難しい。特に、これまで働いてきた業界では、一つの技術が業界全体をひっくり返すこともあるし、そんな技術革新も他の業界より遥かに早い。

そんな中でイノベーションを起こして行くには、知らないことや新しい事のリスクや不安を”Embrace”する気概が欠かせないだろう。そんな姿勢を、一緒に机を並べる友人たちから学べることはまたとないチャンスである。

そしてもちろん、それらの不確実性をEmbraceしながらも上手く乗り越えて行くハードスキルもまた必要であり、それこそがMBAプログラムの中で最も身に付けたいものである事は今も変わらない。