Your focus determines your reality.

思ったことや新たに知ったことのメモとして。元々は留学中に考えていたことを記したブログでした。

意思決定において陥りやすい思考の罠

水曜日のCreativity & Innovationは相変わらず面白い授業だ。

クリエイティブな思考とは何か、どうすればクリエイティブになれるのかを考えることで、ビジネスの中での思考や判断をいかに有益なものにするかを学ぶ授業であり、必修にしても良いのではないかと思うくらいだが、夜の授業ということもあり10人の少人数クラスなのもまた授業にガッツリ参加することができて良い。

 

今週は意思決定について。

意思決定といえば合理的な判断と同等に語られることが多いのだが、なぜそもそもクリエイティビティが必要なのか。

教授によると、意思決定はいわゆる「問題解決」と同じであり、いかにたくさんの選択肢をそれらのPros/Consを認識しながら挙げることができるかにかかっている、とのこと。つまり良い意思決定とは、Pros/Consが明確な選択肢をできるだけ幅広く挙げ、それらの中から合理的な判断をすることと言える。

この時、いかに良い選択肢を挙げられるかという能力がクリエイティビティとして語られる。

具体的には、以下3つの観点から視野を広く持つことがクリエイティブな意思決定のポイントとなる。

 

幅広い視野で未来を予測すること

例えば需要の変動や物価の上昇、競合の参入など、外部環境の変化をいかに幅広い視点で捉えられるかは、意思決定に向けた前提条件をいかに正しく認識できるかに関わってくる。

自分の意思決定に影響を与える外部環境の変化にどのような可能性があるかを知っていると、挙げられる選択肢の精度と数も変わってくる。

 

幅広い視野で目標を捉えること

自分が意思決定をしようとしていることが何を解決することなのかをいかに幅広く捉えられるかも、挙げられる選択肢の数を広げてくれる。

砂漠で車を修理したい時、「どうやってジャッキを手に入れるか」と考えるより「どうやって車体を持ち上げるか」と考えた方が断然選択肢は広がる。

 

幅広い視野で選択肢をあげること

トートロジーのようだが、これも重要な要素の一つ。

多くの人は無意識にたった一つの選択肢に注目すると他の選択肢を考えなくなってしまう。意識的に考えうる選択肢を洗い出した上で意思決定をすることが必要。

 

授業の中で教授が何度も強調していたのが、「人間は自分の視野が狭まっていることに気付かず、自分の認識が完璧だと信じ込んでしまう。視野を意図的に広げることが重要だ」ということ。

確かに、慣れ親しんだ業界や業務の中にいると、「多分これが現実解だろうな」とか「結局こうするしか無いんだろう」という考えに陥りがちだし、実務の中でもそんな言葉を何度も聞いてきた。

しかし慣れが通用しない新しい物を作り新しい顧客に売るには、視野を広げ、「クリエイティブ」な意思決定をすることが必要だ。

そのためには、視野が狭まるのは人間の習性だということを意識し、自覚的に広い視野で問題を捉え直し、背景を理解し、選択肢を挙げなくてはならない。

クリエイティブ思考と知識の深さ・幅の関係

水曜夜のCreativity & Innovationは、クリエイティブな思考についてケースを通して学んでいく異色の授業。

抽象的になりがちな「クリエイティブ」という言葉を「新しいこと」+「価値があること」と定義づけ、クリエイティブなアイディアがどのように産まれるのかを学ぶことで、自身がクリエイティブになるためのヒントを掴むという授業である。

2週目となる今週は、クリエイティブ思考と知識との関係性について学ぶこととなった。

 

Adjacent Possible

前提として、クリエイティブなアイディアは突然何も無いところからは生まれない。アイディアはこれまでの経験、これまでに得られた見解、これまでに学んだ事実に基づいて生まれるものであり、新しいアイディアは既存のアイディアを新しい組み合わせで使うか、既存のアイディアを新しいものに適用することで生まれる。

これは革新的だと言われるようなアイディアも同じで、突然変異で生まれるのではなく、既存のものの上に積み上げていくものである。

この時、既存のアイディア、知識、技術、問題解決方法を元に組み立てられる次なる新しいアイディアを"Adjacent Possibleと呼ぶ。革新的なアイディアも既存の知識に「隣接した(Adjacent)」ところから生まれるし、長期的な革新も隣接の隣接の隣接のを伸ばしていった先に成し遂げられるものである。ちなみに既存のアイディアは"Current building blocks"と呼ばれる。

この概念を理解するため、授業の中ではショートケーススタディとして、映画「アポロ13」を扱った。

酸素タンクにトラブルが発生、避難した先の月着陸船でも船内の二酸化炭素排出が追いつかず、急遽対策を取らなくてはならないことに。状況を見ていたヒューストンでは、月着陸船の空調設備と司令船のフィルターをつなぐ「アダプタ」を急遽考案することになった。この時使えるのは船内にあるものだけであり、ヒューストンのメンバーは船内にあるのと同じ材料を机の上に広げ、それらを使っていかに問題を解決するかを考え始める。まさにこの時机の上にあるものはCurrent building blocksであり、彼らがしていることはまさに、それらを組み合わせたりすることでAdjacent Possibleを探っていくことに他ならない。

ここから言えることは、クリエイティブな考え方をしよう!と意気込むのであれば、いきなり突飛なアイディアを考えようとするのではなく、まずは現行の最新のことをしっかりと学び、それらをどう組み合わせたり、違う分野に応用したり、少し変えてみたりすると問題解決につながるかという考え方をするべきだということである。

ビジネスも当然その通りで、新しい収入源を立てようとするならば、現在の市場や自社、競合のことを知っている必要があるし、既存の商品やビジネスモデルを新しい分野や市場に応用できないか、既存のアセットを新しい使い方で活用できないかなどを考え、意識的にAdjacent Possibleを模索していくことが重要だ。

 

Negative Transfer

では知識があればあるほど新しいアイディアは生まれやすいかというと、そうではないという説がある。既存の知識にとらわれてしまい、新しいアイディアを生み出す足かせとなる、というよく言われがちなことが、様々な実験により証明されている。

その一つがドゥンカーのロウソク問題だ。机の上にあるロウソク、マッチ一式、箱に入った20個ほどの画鋲を使って、壁にロウソクを安全な方法で固定せよ、という古典的な思考力試しのテストである。

答えは画鋲の箱を画鋲で壁に固定してその上にロウソクを立てるというものだが、この問題の正答率が低いのは「箱は画鋲の入れ物だ」という固定観念にとらわれてしまい、その箱を使うことに頭が回らなくなるからである。その証拠に、画鋲の入った箱の代わりに空っぽの箱が置いてある場合に正答率は格段に向上する。

つまり、人間は一旦学んだことや思いついたことを潜在的に新しいことにも応用しようとしがちであり、逆にその既存の考え方から抜け出して新しいモノの見方や考え方を考え続けるのは難しい性質を持っている。このように、捕らわれる必要のない既存の概念を他のものにも当てはめてしまい思考が狭くなることをNegative Transferという。

Current building blockに基づいてAdjacent possibleを探す時には、自分がそのBlockにとらわれやすいということを意識しておくことが必要だろう。

 

知識の深さ/幅はクリエイティブ思考の助けになるか

逆に、何かを創造するためには本当に知識や経験が必要なのだろうか。よく新入社員などに「まっさらな視点で見た方が創造的な思考ができる」などと言われるが、どうだろうか。

クラスの中では様々な時代の音楽家を例にとり分析をしていった。1989年にヘイズが76人のクラシック音楽家の創作について研究した結果によると、彼らの残した500曲にも上る「傑作」と言われる作品は、いずれも作曲者が8年以上のキャリアを積んで以降に書かれたものであり、さらに10年以内に書かれたものはたった3曲だけであったという。これはモーツァルトのような天才にも漏れなく当てはまり、「10年説」として確立された考え方である。ヘイズは同じ分析を131人の画家、66人の詩人に対しても行なったが、結果は同様であった。

つまり、世に傑作と言われるような大創造をするまでにはそれなりの経験が必要であり、無からいきなり傑作が生まれることは(たとえ天才であっても)無いと言えるだろう。

我々凡才は、創造的な思考を目指しながら経験を積み上げ、しかしその経験にとらわれないように意識しながら、そこからAdjacent possibleを模索するという方法が良いようである。

 

2019冬学期振り返り

先週は月曜に自宅受験の期末試験を受け、木曜に最終レポートを提出し、春休みに入った。

不完全燃焼だった先学期の反省を活かし、今学期はそれぞれの授業やグループに食い込んでいくことができた。課題やグループワークは負荷もかなりかかり、グループ内での衝突も何度かあったが、その分得るものも多く、マーケティングリサーチの実践的経験やチームダイナミクスがいかにして生まれるかを身をもって知る良い機会もたくさん得ることができた。

さらに、グループプロジェクトであるLab to Market+いずれも少人数でクラスディスカッションへの積極的な参加が求められる授業が3つという履修の仕方も、クラスやチームの中で自分ができることについて考え行動するための良い刺激となった。

2年間の留学も残り3カ月。最後の学期は特にLab to Marketで結果を出すことに注力して、全力で駆け抜けたい。以下、今学期の各授業の振り返り。

 

Consumer Behavior

顧客行動に影響を与える大小の要素と、それを踏まえて顧客の行動や思考をいかに掴みマーケティングに活かすかに着眼した授業。

これまでに受けた授業のうちのResearch for Marketing DecisionCustomer Analyticsのようなリサーチ系授業を定性分析的側面から補完するような内容で、数的なデータ分析が示すものについての仮説を立てたり、因果関係を読み解いたりするための知識の引き出しを増やしてくれる授業であった。

また、個々のトピックは高い視点からのマーケティングリサーチというよりは、より現場に近い販売戦略や営業の実務に活かせそうなものが多く、顧客という生き物がどういう習性をもっているかを知っておくことで、営業戦略を考える際に「失敗に陥らない」ための知識として活用できそうである。

 

Customer Analytics

R言語を使った統計分析ソフトRadiantの開発者であるVincent Nijs教授による定量分析の授業。

ツールをバリバリ使うというよりは、定量分析が何を解決してくれるのか、そのための分析手法はどんなものがあるのかを丁寧に解説してくれ、それらを理解した上でツールを使ってハンズオンの課題を大量にこなしていくという内容で、これまでの授業の中でもトップレベルに満足度の高い授業。

具体的には、どの顧客が今後どれだけの利益を会社にもたらしてくれるかの計算と、過去の購買履歴データなどに基づき、どの顧客を相手にして、どの顧客は相手にしないべきかを考えたり、どの顧客にどの商品を販売するのが利益最大化に繋がるかを考えたりするプロセスを学ぶことができた。

自社の事業のことを考えても、多くの顧客基盤を持っていながらそこから得られるデータを活用できていないということを考えさせられた。

今回の3カ月で完璧に定量分析をマスターしたわけではないが、マーケティングのゴールに対してどのような手法を使って何を知ることができるかは体得することができた。

自社は公共性の高い企業組織であることも影響し、色々なところで全方位的な販売戦略や商品戦略が取られがちであり、それは時にはコストを度外視したものであったりしてしまうが、そこにこの授業で学んだような考え方を持ち込むことにより、戦略を取捨選択するための指針になるはずだ。特に、これまでの経験則が通用しない新たな商品や新たな販売モデル、新たな業界での戦略立案は、こうした知識が道しるべになってくれるだろう。

また、この授業のグループワークではインド人のチームメイトとグループワークの進め方について衝突しながら、お互いの不満点についてしっかり話し合い、最終的には以前に増してグループの結束が固まったという経験も積むことができた。リスクフリーな環境だからこそお互いに納得がいくまでトコトンやり合えるのもMBAという特殊な環境の良いところだ。

個人的に、グループワークというものはグループに貢献しただけ得る物も多く返ってくると思っているが、今回もそれを感じられた。次の3カ月も、そしてその先の実務の中でも、この姿勢は貫いていきたい。

 

Lab to Market

Radyの看板授業であり、3学期間に渡る授業の第2部。来学期の第3部と合わせ、事業立案のハンズオンプロジェクトであり、新生児向け血液検査の新技術を事業化するプロジェクトを進めている。Radyに来ると決まった時からやりたいと思っていたバイオテックの事業化案件であり、知らないことと分からないことだらけで刺激的だ。

今学期は事業の魅力度を測りGo/No-Goの意思決定をすることを目標として、誰にどんな価値を提供できるかの定義、市場規模の概算、競合と比較した自社の強みの明確化、販路の計画とビジネスモデルの構築、そしてこれらに基づく事業価値の算定を行ってきた。結果としては「GO」の判断となり、来学期も同じメンバーで同じプロジェクトをさらに進めていくこととなる。

来学期は事業化に向けて投資を受けるなどの目標をグループで立て、それに向けて具体的な事業立案を進めていきたい。具体的には、FDA認可承認のためのプロセス、そのためにいつどれだけの資金が必要かのさらに詳細な計画立案、ビジネスモデルの再検討と価格決め、そのために必要な市場調査を行っていく必要がある。

このグループはとにかくメンバーの能力とやる気が高く、マイルストーンとなっている課題提出前のチームの勢いはこれまでの色々な授業のグループの中でもダントツだと感じる。ただ、グイグイ引っ張るタイプのリーダーがいないため、やるべきことや決めるべきことが定まらずミーティングが長引いたり物事がなかなかスタートしなかったりしがちなので、チームの運営について来学期はじめに意識を合わせ、パフォーマンスをさらに引き出せるように働きかけていきたい。

 

Technology and Innovation Strategy

新たな技術を用いたイノベーションがいかに起きるのか、イノベーションが起きている/イノベーションを起こしている中で企業は何をすべきで何をすべきではないかについてケースを通して学んだ授業。

今学期の授業の中では最もアカデミックな授業であり、教授とはウマが合わずその上課題量もかなり重かったが、トピックは面白く、ケースから学ぶことも多かった。 特に、Sカーブやオープンイノベーション、標準競争などは自社事業との親和性も高く、自社や通信業界の姿を重ねながら考えたり、授業の中で自分の経験をシェアしたりすることもできた。

オープンイノベーションなど具体的な手法論やブロックチェーンのような具体的技術トレンドも学ぶことができたが、全体としてはかなり視座の高い授業であり、業界全体や自社の技術がイノベーションのどのような段階にいるかを理解して、その中で自社が取るべき戦略を考えるための基準を学べたことが一番の収穫。

理想のチーム・つづき

今週はプレゼン×3、最終レポート×1、課題(重い×1と、これまでのMBA生活でもっとも体力的に厳しい1週間となった。Customer Analyticsの課題の結果やTechnology and Innovation Strategyのプレゼンへの評価など悔しい部分は残るものの、Lab to Marketのプレゼンが上手く行ったことや、それぞれの課題の過程でのグループワークを通して色々な経験を出来たことで、得るものの大きい一週間でもあった。今学期も残るは自宅で受けるテストとグループ最終レポートが1つ。

 

今週はこの通りかなりハードな一週間だったのだが、その中でもハイライトとなったのがLab to Marketの最終レポートとプレゼンであった。月曜に最終レポートを提出し、その後水曜にはゲストとして招かれた投資家2名、教授2名、70名ほどのクラスの前で自分たちの事業戦略と意思決定についてプレゼンを行った。

レポートとプレゼンの内容としては、授業の欄にも記載した通り、ターゲットマーケットの大きさと内容、競合の状況、自社の持つバリュー、企業将来価値、投資対効果などに基づき、プロジェクトについてGOサインの判断を下したというもの。しっかり周到に準備したこともあり、グループ全体で手応えを感じられるプレゼンを行うことができた。

 

以前理想のチームについて記載したが、今回もチームワークについて考えさせられる転機となった。

とにかくこのチームは5人のメンバーの能力が高く、さらに貢献意欲も高い。忙しいメンバーが多くスタートが遅いのが弱点ではあるが、スタートしてからのメンバーのチームへの食い込み方が他のグループとは段違いである。

今回も月曜のレポートについては週末に入るまで遅々として進まなかったが、週末には各自が自分のパートを埋めるだけではなく、お互いの書いたパートに目を通し、疑問点や改善点を出し合い続け、レポートをブラッシュアップし続けた。また、その過程ではお互いの労をねぎらったり、冗談を言い合ったりしてチームの雰囲気がどんどん良くなっていった

その後のプレゼンに向けても、お互いが自分たちのパートのスライドを作るだけではなく、提出期限の間際まで全体を全メンバーが見通して修正を続けた。プレゼン当日には忙しい中1時間も前から集まり、時間を計って練習し、お互いの話す内容などに対して改善点を提案し合うという進め方をすることができた。

結果として、5人で下した「GO」の意思決定は投資家たちからも受け入れられ、チーム全体で良い結果を残すことができた。

 

今回の最大の勝因としては、メンバー間のリーダーシップが噛み合っていたという点が真っ先に挙げられる。

このチームメンバーのリーダーシップの取り方は、全員が「やってみせることで引っ張る(”Leading by example”」というスタイルである。

誰かがグイグイと方向性を示してファシリテートするわけではないので、ミーティングの時にどんどん物事が進むというわけではないが、一旦大まかな方向性が決まるとみんな手を動かし始め、それによって具体的なゴールが見えてくる。

また、すべてのメンバーがきちんとリーダーシップを取っており、MBAあるあるのフリーライダー」がいないため、チームの作業能率が高く、士気が下がりにくい点も長所だと感じている。より良いものを作るために、お互いの課題点を指摘しあったり改善を求めたりすることもしょっちゅうだが、そんな中でも気持ちよい関係を保ちながら前に進めているのは、全員がこのチームに向き合い、自分のできることをすることでリーダーシップを取ろうとしているからに他ならないだろう。

 

当初は議論がふわふわしがちであったこのチームも、3ヶ月間でいくつかのヤマを乗り越えることで全員が進め方を掴んできている。

個人的には、チームの結束を固めるのは懇親会などではなく、皆でヤマを乗り越えることでしかないと思っている(日本だと「とりあえず飲みにいきましょう」となることがある)。これまでの仕事でも、社内外問わず良いチームを築いた関係の人たちとは、苦労を共にしてヤマを乗り越えてきた経験がある。

最後の学期である来学期に向けては、具体的なマーケティングプランやプライシング、FDA承認取得に向けたトライアルの設計、資金調達の具体的なプラン立案などまだまだ課題が山積みだが、これらを一つ一つ乗り越え、事業プランに引き続き磨きをかけていきたい。また、次の3カ月でこのビジネスプランをどこまで持っていくかというゴールをメンバーで見定め、それを達成することに全力を尽くしたい。

新ビジネス創出の際の業界理解

水曜日のLab to MarketL2M)では、新生児向けの血液検査新手法のビジネス化に取り組んでいる。

これまでに競合調査、自社の強みの明確化、患者・医師のニーズの調査などを行ってきたのだが、先週のアドバイザとの面談を通して、取り組みの重点が「保険会社のニーズをつかむこと」に変わってきている。

アドバイザとは、教授がプロジェクトの内容に沿ったプロフェッショナルを各プロジェクトのアドバイザとして割り当ててくれたもので、我々のプロジェクトには地場で血液検査会社を営むナイスガイ、Darrelがアサインされている。Darrelとの面談では我々の持っている技術についてと、患者や医師に与えるメリットについて説明をしたのだが、それは全て以下の言葉で一蹴された。

「保険会社のメリットは?君たちのサービスに金を払うのは誰だ?保険会社にメリットが無ければどれだけ優れた技術でもビジネスにはならない」

後から聞けばおっしゃる通りなのだが、検査を受ける患者とその家族、そして検査を施す医師のことばかりに意識が集中してしまっていたことは確かであり、情けない限りである。

ヘルスケアサービスは、何かを誰かに売るという単純なビジネスとは異なり、色々なプレイヤーが関連する。検査を受ける人、検査内容を決定する人、検査の実施を承認する人(患者の家族など)、検査を承認しお金を払う人等々。

ビジネスモデルを考えるにあたっては、何よりまず直接の顧客である「お金を払う人」のニーズを満たすことが最も重要であるのに、表面的な構造にとらわれ、そこに目が行っていなかった。我々のサービスである血液検査に対してお金を払うのは保険会社であり、彼らこそ我々の顧客であるのだから、そのニーズこそ我々が最も満たすべきものであるのは明らかだ。

 

アメリカの保険制度は実はかなり複雑で、アメリカ人でもその内容やカバレッジがどのように決まるかなどを理解している人は少ない。ということで、まずは医師や保険会社のツテを辿って、保険会社がどのように保険カバレッジの内容を決めているかの情報を急ぎ集めることとなった。

私も、妻が毎週ボランティアしているクリニックで医師にインタビューをさせてもらった。その結果、以下のようなことが明らかになった。

・血液検査含む検査費用は、基本的に保険会社が負担

・保険がカバーするかどうかは、症状に応じた適切な検査をまとめたいわゆる「プロトコル」に載っているかどうかが勝負FDAや学会、医療関連団体の認定により作られるもので、プロトコル上「必要な検査」として認められた検査は保険会社もカバーせざるを得ない

・加えて、従来の検査より安価な検査に対しては保険会社は積極的

こうしたことが明らかになったことで、「価格水準を明らかにすること、FDAの承認を得ることで、保険会社にカバーしてもらう」ということが我々の直近のマイルストーンとなった。

 

新規事業を起こす=新しい市場に入り込む際には、当然のことながらその業界のプレイヤーがどのように関連しているのか、誰がどのような役割を担っているのか(お金を払う人、サービスを使う人、意思決定する人等々)を明らかにすることが出発点となる。

競合に対する技術的な優位性を見つけるのも、「誰にとっての価値か」がわかっていなければ意味がない。超基本的なことを痛感させられた週になってしまった。

社会的関係、それを踏まえた感情が顧客行動にもたらす影響

月曜日のConsumer Behaviorでは、他者とのつながりから個々の顧客がどのような影響を受けているかについて扱った。

顧客、というより人間は、自分自身の考えと同じくらい社会的な人間関係から影響を受けており、それが購買行動にまで影響を及ぼしている。

具体的な影響の種類としては、以下のようなものが挙げられる。

 

・他者との比較

帰属意識/魅力的な他者と繋がりたい気持ち

・社会的証明

・社会趨勢への追従

・人間関係

 

他者との比較

他者よりも良くありたいという潜在意識が、購買を促すことがある。

アメリカのアパレルブランド「アバクロンビー&フィッチ」の旗艦店は、店頭に筋骨隆々な男性が上半身裸で立って買い物客を迎えるのがトレードマークになっているが、これは購買行動に影響があると言う科学的な調査結果が出ている。

ある家具店で、同様に強そうな男性を入口に立たせている場合と誰もいない場合とで顧客の購買履歴を調査したところ、男性の顧客は入口に強そうな男性が立っている場合の方が使用金額、購入点数ともに増えると言う結果が出た。強そうな男性を見ると、たくさんお金を消費することで社会的な強さを示そうとする人間の性質の表れである。

 

帰属意識/魅力的な他者と繋がりたい気持ち

これはまさに、SNSでのステルスマーケティングなどに表れている。自分が好意的に思っている人物の購買行動に引っ張られて同じものを買うことで安心感を得られると言う性質だ。

これも実験結果がある。ある大学のブックストアにあるTシャツ売場で、隣で美形の男性・普通の男性・美形の女性・普通の女性のうち誰か一人がTシャツを試着しているのを見せ、顧客が同じTシャツを買うかどうかを調査した場合、男女ともに「魅力的な見た目の異性」が試着した場合のみ、隣に誰もいなかった場合と比較してTシャツの購入確率が上がっている。

 

社会的証明・社会趨勢への追従

安全で正しいことをしたいという性質。他人が何かの行動を起こしているのを見た場合、それは安全で正しい可能性が高いと言う判断を潜在的にしている。

授業の中では、黒人差別反対運動がいかにして広まったかについて扱った。1950年代のアラバマ州で、黒人女性ローザ・パークスがバスの中で白人に席を譲らず逮捕された事件を受け、地域の有力者たちによるバスのボイコットへの呼びかけが始まった。

それまでも同様の逮捕事件は起きていたが、ローザの逮捕がここまでの大きな運動に発展したのは彼女が地域有力者との繋がりを持っていたことが発端だとされており、そうした人々の呼びかけであることで地域の人たちも運動に参加しやすい状況が生まれたのだと考えられる。この差別反対運動はその後マーティン・ルーサー・キング・ジュニアらによって率いられ、1964年の公民権法制定にまで繋がっていった。

 

人間関係

情報伝達や助け合いの気持ちは人間の大きなモチベーションの一つである。

上記のローザ・パークス公民権運動の際には、有力者の呼びかけに最初に応じた人数が多かったのは、ローザが地域のコミュニティに多数参加しており顔が広かったことが要員として挙げられている。

また、購買行動を促すものとして、友達どうしの間での口コミが無視できないことはもはやマーケティングの常識だ。他にも、最初に何かをプレゼントしてしまい、購入を断りづらくすると言う戦術も古くからあるものとして有名だ。

 

人間を動かすこうした効果は、営業や販売の最前線では無視できない力になる。

また、例えばデータを見て顧客の行動を調べたりする際に、無味乾燥なデータから顧客の行動の背後に働いているモチベーションを予想したり、それによって因果関係を正しくひも解いたりすることに必要な知識だ。

特に因果関係を正しく捉えることは、データを正確に分析することと同じくらい重要で、これを間違ってしまうと、データを正しく解釈できたとしても、そこから読み取れる問題を解決する施策立案の段階で正しい解決策を打ち出せなくなってしまう。

こうした引き出しを地道に増やせるのもMBAの醍醐味だと考え、どんどん吸収していきたい。

オープンイノベーション

木曜日のTechnology and Innovation Strategyはオープンイノベーションについて。

 

社外のパートナーや顧客とのネットワークを活用し、自社だけではなく他者の力も借りて新製品や新事業の開発を薦めるという手法だ。日本でも数年前からバズワードとなっており、各企業が率先してオープンイノベーションを起こすためのアクセラレータープログラムや顧客を巻き込んだ開発プログラムを立ち上げている。

授業の中では、大人のユーザをアンバサダー制度によって製品開発プログラムに組み込んだレゴ社のケーススタディをスタート地点として、オープンイノベーションをうまく起こすのに必要となる要素を実務レベルで見ていくこととなった。

 

授業の中で取り上げられた、オープンイノベーションのために必要な5つの基本的要素は以下の通り。

 

1. 効果的なネットワークの構築

まずはアイディアを出し合うネットワークの構築がなければオープンイノベーションは始まらない。レゴ社がアンバサダー制度として顧客を招き、プログラマ建築士など、社内にはいないプロフェッショナルと新しい事業開発を進めたように、全く違った分野のプロフェッショナルたちと同じ目的に向かってアイディアを出し合うことが第一歩となる。

 

2. アイディア発掘役とアイディア連携役の育成

社外のネットワークを広げ、アイディアを拾ってくるアンテナのような役割を果たす人と、それらのアイディアをつなげ、実際に事業の形にしていくハブのような役割を果たす人が必要である。

 

3. 時間とリソースの配分

アンテナ・ハブとなる人のマネジメントについて。アンテナ役には、社外に出て行ってネットワーク構築をする時間を与え、いかに有効なネットワークを形成したかを評価すること。ハブ役については、アンテナ役が拾ってきたアイディアやネットワーク同士を組み合わせ、いかに新しいものを生み出したかを評価すること。

 

4. 正しいモチベーション管理

これはオープンイノベーションに限らず新規事業開発の全てに当てはまるが、早期の意味ある失敗と、長期的な成功を評価基準とすることが重要。

もちろん全ての失敗を評価対象にするのではなく、リスクをとった失敗と、そこから長期的成功につながる何を学び取ったかを評価の対象にすること。

 

5. ユーザフレンドリなプロセスの構築

巻き込む対象である社外のプレイヤーに対しては、自社が何を目指し、何ができるのか/できないのか、社外プレイヤーに期待することは何かを明らかにすることで、社外プレイヤーのアイディアをコントロールすることで、効率的なイノベーションプロセスの運営がしやすくなる。

レゴ社はオープンイノベーション専用のソーシャルメディアプラットフォームを作り、アンバサダーユーザとのコミュニケーションを円滑にしたことが成功要因の一つだと捉えている。

 

今回の3時間の授業ではそこまでディスカッションが深まらなかった(いつも思う、この授業の惜しいところ)のだが、巷に溢れる「オープンイノベーション」に対して自分なりのオープンイノベーション像を考える良い入り口にはなったと思う。

外からアイディアを募るのは良いが、あくまでイノベーションを起こすのは自社である、ということが基本的な姿勢として必要だ。イノベーションを起こしそうなアイディアを見つけてきて、それに対して自社が乗っかるというのはオープンイノベーションではないだろう。

それよりも、自社がどんなイノベーションを起こしたいのかを明確にし、それを周囲のプレイヤーにしっかりと理解してもらった上で、相手の専門知識を借りて自社の事業開発や製品開発を加速させるという態度で臨むことが重要だと思う。

教授が繰り返していた「最も重要なことは『そもそもレゴとは何か」を考えることだ。どんなイノベーションが次に必要になるのか?」という問いが印象的であった。

 

自社も10年以上前から社外プレイヤーと協力して新たな事業を起こそうとしているが、その根底には自分たちがどんなイノベーションを起こすべきなのかというポリシーのようなものが必要である。それがなければ、こちらのリソースだけ良いように使われて、こちらには何も残らない(=儲からない)提携で終わってしまう。

今であれば、中小企業向け営業の提案材料を増やすことに専念した製品開発なのか、全くの新しい自社事業を立ち上げるための事業開発なのか、そしてその中でもどのような顧客の課題を解決するためのものなのかなどを明らかにした上で、他社の力を借りることが必要だと思う。